研究実績の概要 |
植物と病原菌は細胞表層・アポプラストにおいて,侵入しようとする菌の検出と植物側の防御応答の起動を巡ってさまざまな形で攻防を行っている。我々はこれまで真菌類の代表的な微生物分子パターン(MAMP)であるキチンの断片に対するキチン受容体(CEBiP型 およびCERK1型)を同定し,その受容体の活性化機構を解明してきた。本研究では, 植物の細胞表層における植物の病原菌認識が分子レベルでどのように行われ,下流のシグナル伝達活性化につながるか,また,どのようにして細胞壁レベルでの防御応答に結びつくかを明らかにすることを目指している。本年度は,キチン受容体を中心に,受容体の細胞表層における局在性と動態を明らかにし,リガンドによる受容体活性化機構の解明を行った。そのため生物活性を保持した受容体の適正な蛍光タグの導入位置の探索および異種発現系を用いた目的タンパク質の発現とそれを利用した機能解析についての検討を行い,またリガンド依存的に受容体活性化の動的変動についても解析を進めた。 植物は菌の侵入に対して局所的に物理的障壁としてカロースを主成分とするパピラ形成することが知られている。我々はキチン誘導性カロース蓄積機構の解析が,パピラ形成のメカニズムの理解につながると考え,事実,我々はこれまでエリシター処理時のカロース蓄積を顕微鏡下で観察されるスポット像に基づいて定量的に解析するプログラムを開発し,この解析法による変異体を利用した解析から,キチンエリシター処理によるカロース合成は,病原菌感染時のカロース合成で中心的な役割を担うGSL5/PMR4によることを確認している。このキチンの認識が細胞表層レベルでの防御応答であるカロース蓄積にどのようにしてつながるのかを受容体下流でカロース蓄積制御に関わるシグナル伝達系上流因子の同定と機能解析を行うとともに,病原菌感染やエリシター刺激時の局所的カロース蓄積に関わる膜交通系因子の同定を目指す。
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