公募研究
植物の細胞膜上には多くの受容体が存在し、細胞外情報を細胞内に伝達している。その際、細胞内では、MAPKカスケード(MAPKKK- MAPKK- MAPKの3つの異なるタンパク質リン酸化酵素による信号伝達経路)が活性化されることが知られている。しかし、それらの受容体シグナルによるMAPKカスケードの活性化が独立しているのか、あるいはクロストークしているのかは不明である。我々は、病原菌由来のキチンを認識する受容体CERK1が、受容体型細胞質キナーゼPBL27をリン酸化することで、キチン認識シグナルを細胞内に伝達すること、また、PBL27はMAPKKK5を介して、キチンに応答したMAPKの活性化を制御することを明らかにした。一方、細胞膜受容体であるFLS2は、病原細菌由来の鞭毛タンパク質由来のペプチドflg22を認識し、細胞内でMAPKの活性化を誘導することが知られているが、その分子機構は不明である。PBL27やMAPKKK5の機能欠損変異体では、キチンに応答したMAPKの活性化が抑制される一方で、flg22に応答したMAPKの活性化は上昇していることが明らかになった。このことから、CERK1とFLS2を介した信号伝達経路がクロストークしていることが示唆された。さらに、cerk1変異体では、flg22に応答したMAPKの活性化が上昇し、同様に、fls2変異体では、キチンに応答したMAPKの活性化の上昇が検出された。このことから、fls2変異体において、CERK1およびPBL27、MAPKKK5の発現量の上昇が予測されたが、転写レベルでの影響は見られず、タンパク質量や活性制御との関連が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実施計画の通りに、クロストークへの関連が予測される受容体、RLCK、MAPKKKの遺伝子の転写レベルの解析を行ったが、直接、クロストークとの関与が示唆されるデータは得られなかった。しかし、PBL27-HAを発現させるコンストラクトをfls2変異体に導入した植物の解析により、fls2変異体では、PBL27のタンパク質量が増加しているという予備的な結果が得られた。このことは、RLCKファミリーのタンパク質量がクロストークに関与している可能性を示唆している.
本年度の研究成果により、PBL27やMAPKKK5だけでなく、CERK1あるいはFLS2の欠損により、両受容体間でMAPKの活性化にクロストークが見られることが明らかになった。その一方で、活性酸素の生成においては、クロストークが見られていない。予備的な結果として、fls2変異体におけるPBL27のタンパク質量の上昇が、キチンに応答したMAPKの上昇に関連していることが示唆されたため、受容体からのシグナルを受けるRLCKの量がクロストークを規定している可能性が考えられる。そのため、それを検証するための実験を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち謝辞記載あり 1件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
バイオサイエンスとインダストリー
巻: 73 ページ: 206-209
植物感染生理談話会論文集
巻: 50 ページ: 63-72
化学と生物
巻: 53 ページ: 535-541
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