インフルエンザウイルスのMAタンパク質は、脂質エンベロープ直下にマトリックスレイヤーを形成することで、ウイルス粒子の構造を形成し安定化する。これまでに、M1タンパク質は中性pH領域でマルチマー化する性質を有することが明らかになっている。中性pH領域におけるM1タンパク質のマルチマー化は、ウイルス増殖環の後期にエンベロープ膜直下でマトリックスレイヤーを形成するための性質であり、ウイルス粒子形成に必須のプロセスである。また、酸性pH領域においては、マルチマー化しているM1タンパク質は解離し、ダイマー化することも報告されている。酸性pH領域におけるM1タンパク質の解離は、ウイルス増殖環の初期のプロセス、すなわちエンドサイトーシス後の酸性エンドソーム内における脱殻に相当する。従って、M1タンパク質のマルチマー化および脱マルチマー化は、ウイルス増殖において重要な役割を担うと考えられる。しかし、M1タンパク質は膜結合タンパク質であり、脂質膜上における2次元的なM1タンパク質のマルチマー化・脱マルチマー化の分子動態について全く明らかにされていない。本研究では、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いて、脂質膜上におけるM1タンパク質のマルチマー化および脱マルチマー化のプロセスをリアルタイムで視覚的に解析し、その分子動態を明らかにすることで、ウイルスアセンブリー機構の解明を目指した。これまでに、大腸菌発現系を用いてA/WSN/33由来のM1タンパク質を発現・精製した。リポソームから調整したモデル化脂質二重膜を高速AFMの基板であるマイカ上に形成させた。脂質膜上におけるM1タンパク質のライブイメージングを試みた。種々の条件検討を繰り返し、M1タンパク質のライブイメージングを試みてきたが、現在も最適な観察条件を探索中であり、今のところクリアに観察するまでには至っていない。
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