公募研究
リポペプチドを提示するアカゲザルMHCクラス1アリル(Mamu-B*098)を同定し、そのX線結晶構造を解明した(Nature Communications, 2016)。リポペプチドを結合したMHCクラス1複合体の詳細な構造が解明できたことにより、MHCクラス1分子群の機能が旧来考えられていたペプチド提示という画一的なものではなく、リポペプチドを結合し提示できる分子を含んだ多様な分子集団であることがわかった。生体分子間相互作用(Octet)を用い、リポペプチドとリポペプチド提示分子の結合親和性、またその複合体と特異的T細胞抗原受容体との相互作用が、MHCクラス1:ペプチド提示系とほぼ同等であることを実証した。個体レベルでリポペプチド特異的細胞傷害性T細胞応答と旧来のペプチド特異的細胞傷害性T細胞応答の感染防御における意義を明らかにする目的で、サル免疫不全ウイルス(SIV)感染個体における両者の応答を、量的にまた質的に比較する取り組みを開始したが、まだ十分の解析個体数に達していないため、結論が出せていない。一方、代替解析手法として、Mamu-B*098を発現したトランスジェニックマウスの作製に取り組み、マウスラインの樹立に成功した。このマウスの胸腺細胞においてMamu-B*098分子が発現することを確認するとともに、骨髄由来樹状細胞がリポペプチドをリポペプチド特異的T細胞に抗原提示できることを確認した。このトランスジェニックマウスにおいてリポペプチド特異的T細胞応答を誘起できる免疫手法・経路の模索を行った結果、ペプチド特異的応答を誘導する旧来の手法・経路では十分なリポペプチド特異的応答が誘起できないことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
リポペプチドを提示するアカゲザルMHCクラス1分子(Mamu-B*098)を同定し、そのX線結晶構造を解明した(Nature Communications, 2016)。さらに、生体分子間相互作用解析システム(Octet)を用い、リポペプチドとリポペプチド提示分子の結合親和性、またその複合体と特異的T細胞抗原受容体との相互作用の定量化に成功した。したがって、旧来のペプチド特異的MHCクラス1拘束性T細胞応答の分子基盤と比較において、重要な知見が得られた。
これまでにリポペプチド免疫の分子論においては顕著な進展が見られたが、その生物学的解析には十分に踏み込めていない。今後、Nefの翻訳後修飾に起因するウイルス・宿主相克の意義を探究してゆく方針である。具体的には、SIV感染細胞に対して誘起されるNefリポペプチドおよびNefペプチド特異的細胞傷害性T細胞応答を、T細胞株の応答性を指標にして検証を進める。また、感染個体におけるリポペプチド免疫経路と古典的MHCクラス1経路の比較検証を行う。これらから得られる知見を総合し、リポペプチドを標的とした細胞傷害性T細胞応答がウイルス感染防御においてどのような存在意義を有しているのかを明らかにする。また、それを基盤にして、リポペプチドを用いた抗ウイルスワクチン開発への展望を模索する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 10356
10.1038/ncomms10356
http://www.virus.kyoto-u.ac.jp/Lab/SugitaLab.html