研究領域 | ウイルス感染現象における宿主細胞コンピテンシーの分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
15H01268
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮澤 正顯 近畿大学, 医学部, 教授 (60167757)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | レトロウイルス / 抵抗性因子 / APOBEC3 / 進化 / 異種指向性 / DNA変異 / 遺伝子多型 / モノクローナル抗体 |
研究実績の概要 |
我々はマウスAPOBEC3(mA3)が同種由来レトロウイルスに対する生理的抵抗因子で、系統間に多型があることを世界で初めて示した。現存抵抗性系統はタンパク質高発現となるエキソン5欠損型(Δ5)mA3を持つが、齧歯類野生種の解析から、祖先型mA3はΔ5で、現存感受性系統の祖先がタンパク質低発現となるエキソン5を獲得したことが明らかとなった。エキソン5獲得種のゲノムには異種指向性レトロウイルス(XMV)の組込みが無く、多指向性ウイルス(PMV)の組込みが多いが、Δ5を保つ抵抗性種ではXMVの染色体組込みが多い。本研究では、「齧歯類APOBEC3の多型形成における進化圧は、異種由来レトロウイルスであった」との仮説に立ち、PMVがエキソン5獲得型で制限出来、XMVの複製制限にはΔ5が必要であることを検証する。 平成27年度は、XMVにもPMVにも感受性のMus dunni細胞にmA3の各対立遺伝子を導入し、安定発現細胞株を樹立した。即ち、抵抗性及び感受性系統由来のΔ5及び全長型mA3 cDNAを発現ベクターに組込み、Mus dunni細胞に導入して、4種のcDNA何れについても、安定発現細胞株を複数得た。現在、XMV分子クローンをこれら細胞株に感染させ、上清中のウイルス感染価を定量すると共に、二次感染細胞でプロウイルスのG-to-A変異解析を始めている。 一方、現存感受性系統の祖先がタンパク質低発現となるエキソン5を獲得したのは、XMV感染の脅威が無い条件下では、mA3が細胞ゲノムDNAを標的としてしまうため、生存に不利であった可能性がある。そこで、mA3の細胞内局在を生理的条件下で解析するため、mA3欠損マウスを同系野生型マウス脾細胞で反復免疫し、6クローン以上のハイブリドーマを樹立した。うち1クローンにより検出されるmA3抗原性分子は、細胞核内に局在している。今後、本抗体及び他の新規モノクローナル抗体が反応するmA3分子上のエピトープと、それをコードするエキソンを解析して行く。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的である、異種指向性レトロウイルス(XMV)がΔ5型mA3維持に対する選択圧となっていた可能性については、XMV感受性のMus dunni細胞にΔ5型及び全長型mA3を安定発現させることに成功し、既にXMV分子クローンを用いた複製制限実験を開始した。当初の予定通り、2年間の研究期間中にΔ5型がXMV複製制限に有利であることを検証できると期待される。 PMVがエキソン5獲得型で制限できるか否かも、上記の安定発現細胞株が樹立できているので、検証可能である。但し、現在使用可能な多指向性ウイルスは、感染性同種指向性ウイルスと内在性PMVとの組換え型であり、mA3による複製制限の標的構造が本来のPMV型であるとの保証は無い。そこで、祖先型の感染性PMVに最も近いと考えられる分子クローンの作製について、共同研究者であるChristine Kozak及びLeonard Evansと情報交換を行っており、最適なPMV分子クローンが入手可能な見込みである。 一方、XMVによる脅威が無い条件下ではΔ5の存在が却って生存に不利となるため、エキソン5が獲得されたとの仮説については、生理的条件下でmA3が細胞ゲノムDNAに変異を加える可能性を検証することとした。この目的には、mA3の細胞内局在を詳細に解析できる抗体が必要であり、これまで用いられてきた異種動物由来抗ペプチド抗血清では不十分であった。今回我々は、mA3欠損マウスを野生型マウス脾細胞で免疫する手法により、マウス由来のmA3特異抗体を産生する複数のハイブリドーマ樹立に成功した。これは研究手法上大きな進展であり、しかも1クローンの抗体は核内に局在するmA3抗原性分子を検出することが明らかになった。これまで齧歯類のAPOBEC3が核に局在することは知られておらず、我々が検出している核内のmA3抗原性分子の実体と、その発現制御機構を解析することで、mA3に対するもう一つの進化圧としてのゲノム保護の役割が解析できると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、既に樹立したΔ5及び全長型mA3発現Mus dunni細胞株を用い、抵抗性系統及び感受性系統のΔ5型及びエキソン5発現型mA3が、感染性XMV分子クローンに対して示す複製制限の効率の差を、定量的に解析する。また、それぞれの細胞から生じたXMV粒子を野生型Mus dunni細胞に感染させ、二次感染細胞中のプロウイルスについて、G-to-A変位の頻度を比較する。 一方、感染性多指向性ウイルスの複製がエキソン5発現型mA3で制限されるか否か、またそれがデアミナーゼ活性に依存するかどうかを検定するため、先ず従来の組換え型MCFウイルスでは無く、かつて齧歯類の祖先に感染していたと考えられる、祖先型の感染性PMVを復元する。既に、Christine KozakやLeonard Evansと情報交換を行うことで、祖先型の感染性PMVに最も近いと考えられる感染性分子クローンの構築に見通しが立っている。平成28年度は、この祖先型感染性PMVを完成し、上記mA3発現Mus dunni細胞を用いて、エキソン5発現型mA3による複製制限の可能性を定量的に検定する。また、その場合にPMVの複製制限がデアミナーゼ活性依存性か否かを、二次感染細胞におけるプロウイルスのG-to-A変位解析により検証する。 一方、既に樹立したマウス由来抗mA3モノクローナル抗体については、mA3のN-末端及びC-末端ドメインに対する反応性、及び反応エピトープの局在を、部分断片発現とWestern blot法により解析する。また、新規ハイブリドーマ抗体で検出される細胞核内のmA3抗原性分子については、細胞核を分画してWestern blotを行い、反応分子の分子量を確認すると共に、ゲルから切り出したバンドのアミノ酸配列解析や、エキソンスキップ体発現ベクターの構築により、核内分布型mA3の分子実体を明らかにする。
|