研究領域 | ウイルス感染現象における宿主細胞コンピテンシーの分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
15H01271
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
俣野 哲朗 国立感染症研究所, エイズ研究センター, センター長 (00270653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ウイルス / 微生物 / 感染症 / 免疫学 / エイズ / 細胞傷害性Tリンパ球 / HLA |
研究実績の概要 |
本研究は宿主遺伝子多様性へのウイルス適応機序の解明を目指し、ウイルスと宿主の相互作用が長期に渡り継続し病態形成にいたるHIV慢性持続感染症を対象として、ウイルス感染・伝播におけるウイルス変異蓄積および病原性変化の機序を知ることを目的とした。特にHIV感染病態に大きな影響を及ぼすMHC遺伝子型に着目し、ヒトHIV感染を最もよく反映するサル免疫不全ウイルス(SIV)感染サルモデルでの伝播実験におけるウイルスゲノムおよび病原性の変化を解析することとした。 低ウイルス量と相関するprotective MHCハプロタイプA陽性サルから、E(あるいはP)陽性サル、さらにはP(あるいはE)陽性サルへと3代に渡る経静脈SIV伝播実験を平成25-26年度の本領域公募研究にて行い、伝播に伴いウイルスゲノムに細胞傷害性T細胞(CTL)逃避変異が蓄積することを明らかにした。本研究(平成27-28年度)では、伝播に伴うウイルスゲノム変化の詳細な解析を行うとともに、伝播実験で得られた3代伝播SIVのin vitroおよびin vivoでの複製能の解析を進めることとした。 次世代シークエンサーを用いたウイルスゲノムの解析では、伝播に伴う詳細な変異蓄積パターンを明らかにした。3代伝播SIVのin vitroでの複製能は野生型と比較して低下していたが、A陰性サルにおける3代伝播SIV感染実験では、慢性持続感染が成立し、3代伝播SIVのin vivoでの複製能の低下を示す所見は認められなかった。一方、A陽性サルにおける3代伝播SIV感染実験では、血漿中ウイルス量がむしろ高い傾向を示した。本研究結果は、HIV・SIVの伝播の積み重ねに伴うMHC関連変異蓄積進化の可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MHC-IハプロタイプA陽性サル由来3代伝播SIVのin vitroおよびin vivoの複製能・病原性に関する結果が順調に得られつつある。特に、in vitroの複製能の低下を示すにもかかわらず、in vivoでは持続感染成立能を有し、逆にA陽性サルでは野生型SIVより有意に高い血漿中ウイルス量を示す可能性が示されたことはたいへん興味深い。この結果は、MHC-I遺伝子型多様性を有する集団において、エイズウイルスがMHC-I関連変異を蓄積し、protective MHC-Iに対する感受性を失っていく方向に進化していく可能性を示唆しており、学術的に極めて興味深く重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、上記の3代伝播SIV感染A陽性サルを継続的に観察し、血漿中ウイルス量およびCD8陽性T細胞反応を経時的に解析するとともに、末梢血CD4陽性T細胞数やエイズ発症を指標として、病態進行を野生型SIV感染サルと比較検討し、伝播に伴うMHC-I関連変異蓄積が病原性におよぼす影響を明らかにする計画である。本研究により、HIVの集団レベルでの感染伝播における病原性変化の推定の論理基盤獲得に結びつくことが期待される。
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