公募研究
海馬は記憶の形成や想起を担う脳部位であり、海馬錐体細胞においてグルタミン酸作動性の興奮性シナプス入力部位である個々の樹状突起棘(スパイン)が記憶に重要であると考えられている。統合失調症等の一部の精神疾患では海馬でのスパインの萎縮やスパイン数の減少等に伴って進行性の記憶障害が生じるが、その1つのマイクロ病態としてミトコンドリアの障害による代謝異常が関与する可能性が明らかにされ始めている。しかしミトコンドリア障害とシナプス病態が経時的にどのように進行するのかは未だに明らかにされていない。本研究では、統合失調症様の症状を誘発させる薬物の投与や遺伝子の操作によって個々のスパインのCa2+活動・代謝活動、およびシナプス近傍の神経内外環境がどのように変化するのかを明らかにし、記憶障害の発現・進行に関わるマイクロ病態を解明することを目的としている。27年度はスパイン内Ca2+活動と代謝活動の経時変化をイメージングで測定することを可能にする蛍光プローブの作製を行った。さらにシナプス病態の経時的な進行を明らかにするため、長時間培養下での蛍光イメージングを行うための実験条件を検討した。一方、生体レベルでの2光子イメージング法による神経発火活動の検出に適した蛍光Ca2+プローブの比較検討を行った結果、研究代表者らが以前に開発した緑色Ca2+プローブであるG-CaMP7が特に優れたパフォーマンスを示すことを見出した。そこでテトラサイクリン応答配列の使用によりG-CaMP7を特定の時期にだけ発現させることができるトランスジェニックマウスの作成を行った。そしてこのトランスジェニックマウスの活用により、海馬等の部位において単一神経細胞レベルで高精度に神経Ca2+活動を解析できることを示した。
2: おおむね順調に進展している
スパイン内Ca2+活動と代謝活動の解析用プローブの作製や長時間培養イメージングの条件検討が順調に進んでいるため。
最終年度は、これまでの研究成果に基づき、統合失調症様精神症状を誘発させる薬物の投与や遺伝子の操作によりシナプス病態がどのように進行するのかを解析する。
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