公募研究
気分障害や不安障害等のストレスが関わる精神疾患の生涯有病率は、我が国では20%近くに達しており、国民の健康福祉や経済的観点から克服すべき課題のひとつである。ストレス性精神疾患の原因のひとつとして、扁桃体が担う情動制御の異常が示唆されている。ストレスが情動学習に与える影響を明らかにするために、我々は、ストレスホルモンのひとつであるグルココルチコイドの受容体(GR)遺伝子を扁桃体外側核(LA)選択的に欠損させたマウス (LAGRKO) 系統を作製し、恐怖条件付け連合学習を用いた情動学習課題を課して行動学的に解析した。その結果、1)LAGRKOマウスは、音と電気ショックの連合回数が少ない場合には、記憶学習障害を示さない一方、連合回数を6回に増やすと障害を示した。また、この障害は、アデノ随伴ウィルスベクターで、LAに特異的にGRを発現することで回復した。従って、強い恐怖記憶形成にLAのGRが関わる事を明らかにした。さらに、2)この学習障害と並行してLAで記憶過程に重要な転写因子CREBの活性化(リン酸化)の持続時間が減少していることを見いだした。3)この連合学習にストレスが与える影響を明らかにするために、恐怖条件付け前に短時間の拘束ストレスを付加して解析を行った。その結果、拘束ストレス1時間後ではコントロールマウスで低下した恐怖記憶が、LAGRKOマウスでは、低下しないことが明らかになった。これらの結果から、LAGRは、ストレスが関わる恐怖学習過程で異なるいくつかの役割を担っていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初予定した扁桃体外側核選択的にグルココルチコイド受容体を欠損させたLAGRKOマウス系統の作製に成功し、恐怖条件付け記憶の障害を見いだし、また、AAVベクターの構築による機能回復試験にも成功した。このマウスを用いて行動学習を解析した結果、扁桃体グルココルチコイド受容体は、ストレスが関わる恐怖学習過程で異なるいくつかの役割を担っていることを初めて明らかにし、当初予定していた解析が概ね順調に進展したため。
扁桃体外側核(LA)選択的なGR遺伝子欠損マウスを用いて、ストレス性精神疾患に対する抵抗性を示すモデル動物としての妥当性を評価する。さらに、扁桃体外側核選択的なGR遺伝子欠損および対照マウスの扁桃体スライスを用いてマイクロダイセクション法により扁桃体外側核を切り出し、mRNAを抽出してトランスクリプトーム解析を実施し、LAでのGRの標的遺伝子群を明らかにする。見出した遺伝子産物が、ストレス性精神疾患のあらたなマーカー分子や薬物標的となりうるか評価を行う。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)
Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 9757
10.1038/srep09757
Biological Psychiatry
巻: 77 ページ: e27-e29
10.1016/j.biopsych.2014.08.023.