公募研究
これまでに我々は統合失調症患者サンプルを用いたCNV解析から多くの低分子量G蛋白質制御分子に遺伝子異常が生じていることを明らかにしている。とりわけ低分子量G蛋白質であるRhoやRapファミリーGTPasesは神経形態および機能制御に重要な役割を果たすことが知られている。本課題ではRhoおよびRap-GTPases制御分子や神経形態制御に関わる疾患脆弱性分子NDE1に着目して統合失調症の分子病態解明に取り組んでいる。本年度で我々は、神経発達への低分子量G蛋白質制御分子(NDE1,BCR,DOCK4, ARHGAP10, ARHGAP26, RAPGEF1)の関与を検討するため、RNA干渉法を用いた遺伝子機能阻害実験を行った結果、NDE1やARHGAP10, RAPGEF1の機能阻害が神経突起形成およびシナプス形態に異常を引き起こすことを見出した。さらにARHGAP10疾患モデルマウス由来の培養海馬神経細胞は樹状突起形成に異常をきたしていることを見出した。これらの知見はARHGAP10が関わるRhoAシグナルが統合失調症の分子病態に関わっている可能性を生じさせた。また有望な統合失調症発症脆弱性分子であるNDE1が関わる分子病態を明らかにするため、神経発達における疾患患者特有のミスセンス変異(NDE1-S214F)の影響を検討した。我々はプロテオミクス解析を用いて、NDE1と相互作用する分子を100種類以上同定することができた。加えて我々はゲノム編集技術を駆使してNDE1-S214F変異を有するマウスES細胞を樹立し、当該S214F変異を確認した。野生型およびNDE1-S214F細胞でNDE1の発現レベルには差異は認められなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では低分子量G蛋白質の活性を制御する新規精神疾患発症脆弱性分子に着目し、神経形態およびシナプス機能に関わる細胞内シグナル経路を詳細に解析することで、新たなマイクロエンドフェノタイプの創出を目指している。本年度研究計画では神経発達における精神疾患発症脆弱性分子の関与を明らかにするべく、解析対象遺伝子の過剰発現および発現抑制実験を行うことで、BCR,ARHGAP10,NDE1を含む幾つかの脆弱性分子が神経突起形成やシナプス形成に関与していることを見出した。更にARHGAP10疾患モデルマウスを用いた神経形態解析から神経発達におけるARHGAP10の関与を前倒しで明らかにした。また精神疾患発症脆弱性分子NDE1の病態シグナルを解明するため、NDE1相互作用分子の網羅的同定を行い、神経形態やシナプス形成に関わる多くの分子を同定することができた。加えてNDE1-S214F変異の病態への関与を明らかにするため、ゲノム編集技術を駆使してNDE1-S214F変異を有するマウスES細胞を樹立し、当該S214F変異を確認した。これらの知見から本年度において我々は、統合失調症の分子病態解明に重要な手がかりを得ることができたと考えている。
今年度までに我々はBCR,ARHGAP10,NDE1を含む幾つかの脆弱性分子が神経突起形成やシナプス形成に関与していることを見出したことから、これら分子の作用機序をin vivoにおいて実証するため、子宮内電気穿孔法やウイルス感染法を用いて生体脳への遺伝子発現解析を行う。具体的には遺伝子導入した生体脳においてBrdUラベリング法や種々の細胞マーカーを用いて大脳皮質での神経分化や細胞移動、シナプス形成への影響を解析する。また生物学的影響を有するNDE1変異またはARHGAP10変異モデルマウスを用いてシナプス機能を評価する。具体的には作製した統合失調症疾患モデルマウスについてSV2 (シナプス小胞関連分子)-GFPやPSD95 (ポストシナプス分子)-GFP, SEP-GluR1/-NR1 (シナプス膜上のAMPAR/NMDARを可視化)などの蛍光融合蛋白質ベースの解析ツールを用いて神経刺激依存的なシナプス機能変化の検討を行う。加えて、脳スライスを用いた電気生理学的解析でAMPA/NMDA ratioやLTP/LTD発現プロファイルについて検討を行う。また神経ネットワークについては、GCaMP6 (カルシウム指示プローブ)を用いたカルシウムイメージング解析を行うことで評価する。更に作製した統合失調症疾患モデルマウスとDrd1(D1陽性)-YFPやDrd2(D2陽性)-YFPマウスを交配して細胞特異的な観察を行う。交配マウスを用いて我々は神経形態変化の有無や電気生理学的解析(AMPA/NMDA比, LTP/LTD発現解析)を通じてシナプス機能変化を調べることで、神経細胞のサブタイプ特異的なマイクロエンドフェノタイプを同定する。
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