公募研究
自閉症スペクトラム障害は非常に発症頻度の高い神経発達障害であり、その発症メカニズムの解明と治療法の開発が急務である。しかしながら自閉症スペクトラム障害は多様な病態が入り混じった幅広い疾患概念であるため、その病態を忠実に再現するモデル動物の確立は困難である。近年、自閉症家系の大規模エクソーム解析の結果から、最も有力な原因候補遺伝子としてクロマチンリモデリング因子CHD8が同定され、世界中で大きな反響を呼んでいる。そこでわれわれは自閉症患者のCHD8変異を再現したモデルマウス(CHD8ヘテロ欠損マウス)を作製し行動解析を行ったところ、予想通り自閉症様症状を呈することが判明した。CHD8ヘテロ欠損マウスでは、脳におけるCHD8タンパク質の発現量が正常の約70%になっていた。このマウスは正常に生まれるものの、行動学的な解析によって、不安様行動の増加、社会性行動の異常等を呈する。またヒトにおけるCHD8ヘテロ欠損患者に見られる巨頭症や腸管運動の異常も再現することができた。またCHD8ヘテロ欠損マウスでChIP-seq解析やRNA-seq解析を行い、CHD8の結合パターンや、ヘテロ欠損によって影響を受ける一群の遺伝子群を同定した。われわれはこれまでに、CHD8がp53やβ-カテニンの転写活性を抑制することで発生期の器官形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしており、CHD8変異マウスにおける自閉症発症は神経発生過程における転写制御の破綻が原因であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
研究計画通りに順調に研究が推移しているため。
本研究ではわれわれが作製した新規自閉症モデルであるCHD8ヘテロ欠損マウスのマイクロエンドフェノタイプを同定することによって自閉症の発症メカニズムを明らかにする。具体的な到達目標としては、(1)コンディショナルノックアウトマウスを用いて、自閉症の発症時期と責任部位を同定する。(2)In vitro分化誘導系を用いて、CHD8の変異が神経分化に与える影響について評価する。(3)網羅的解析によってCHD8の下流分子を同定し、自閉症の発症メカニズムを明らかにする。(4)CHD8変異マウスのマイクロエンドフェノタイプを同定し、自閉症患者や他のモデルマウスと比較検討する。最近の知見では、自閉症スペクトラム障害は二次的に他の精神疾患を発症する原因になる可能性が示唆されており、本研究の遂行によって多様な精神疾患に広く共通した病態解明につながることが期待される。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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