公募研究
日本産野生マウス系統であるMSMは、実験用系統であるC57BL/6J (B6)と比較して、極度に高い不安様行動と恐怖反応を示す。染色体を置換したコンソミックマウス系統を用いた解析により、この高い情動反応性に関わる遺伝子の1つが17番染色体にあることが分かった(Takahashi et al 2008, Genes Brain Behav)。さらに詳細な遺伝学的解析により、その責任遺伝子が、動物のストレス応答に重要な役割を果たす下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)をコードするAdcyap1遺伝子であることを見出した。MSMとB6系統由来のPACAP遺伝子は、タンパク質コード領域には多型が無いが、視床下部領域における発現量はMSMに由来する遺伝子で有意に高く、実際にPACAP量も多いことが分かった。また、PACAP遺伝子の転写産物には主に3つのスプライシングバリアントがあるが、そのバリアントタイプにMSMとB6間での系統差があることが分かった。バリアントの5’非翻訳領域にレポーター遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子をつないだ発現ベクターを作製して、細胞へのトランスフェクションを行うことで翻訳効率を比較した結果、あるバリアントが最も高い翻訳効率を示すことが分かった。これまでに独立のトランスジェニックラインを複数系統作製することに成功し、遺伝子の発現や行動表現型の解析を進め、その結果について現在検討を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は、MSM由来のAdcyap1遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの解析に多くの時間を費やした。解析した結果、遺伝子の発現はトランスジェニックマウスで上昇しており、導入した遺伝子が発現していることが示された。スプライシングバリアントのタイプの系統差がトランスジェニックマウスで再現されているか否かについては、現在解析を進めている。行動表現型に関して、トランスジェニックマウスを用いた解析を進めているが、これについては、少なくとも雌では高い不安様行動がみられており、導入した遺伝子の効果により、マウスの不安様行動が影響を受けていることが示唆されている。ストレス応答ホルモンの定量を進めた結果、コンジェニック系統ではストレスからの回復が遅れていることが示された。
MSM系統由来の遺伝子を導入したコンジェニック系統やトランスジェニック系統を用いた実験を進め、高い情動反応の一因はAdcyap1遺伝子の高発現にあることを示してきた。これらの系統は、Adcyap1遺伝子の高発現に起因する高い情動性を示すマウスであり、ストレス脆弱性を示す人の良いモデルになると期待できる。今後は、Adcyap1遺伝子の高発現マウスでどのような神経系の微細な変化が生じているのか解析を進めていく予定である。
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Journal of Neuroscience Research
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