統合失調症など精神疾患の病態はシナプス機能異常と密接に関連していると推測されるが、これに基づく定量的なエンドフェノタイプは確立していない。一方、統合失調症患者ではシナプス後肥厚部(PSD)を構成する蛋白質群に変異が集積する確率が高いことが最近の大規模遺伝学解析から明らかになりつつある。本研究では、私共が見出したPSD構成単位であるシナプスナノドメインに着目し、その超解像可視化により、精神病態におけるシナプス変容の新しい評価法を確立することを目指した。今年度は、シナプスナノドメインの形成がどのように制御され、脳病態でどのように変化するのかを明らかにするために、シナプス蛋白質の局在や機能を制御するパルミトイル化脂質修飾に着目した。まず、私共はシナプス蛋白質がどの程度の割合でパルミトイル化修飾を受けているかを網羅的に解析した(AMPA受容体、NMDA受容体等)。その結果、PSDの中核蛋白質であるPSD-95が高い量比でパルミトイル化修飾をうけているにも関わらず、特徴的にダイナミックなパルミトイル回転(サイクル)を有することを明らかにした。さらに、PSD-95の脱パルミトイル化酵素として、ABHD17を同定し、ABHD17の過剰発現により、PSD-95やAMPA受容体クラスター、さらには樹状突起のスパインの密度も大きく低下することを見出した。前年度の結果とあわせて、シナプスナノドメインの変容がマイクロエンドフェノタイプになることを提案するとともに、パルミトイルサイクルの変動もマイクロエンドフェノタイプの一つとなりうることを提案する。
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