公募研究
我々はこれまでに、厳密な細胞分画実験と免疫染色実験により、AUTS2蛋白質が神経細胞の核だけでなく、細胞質領域、特に神経突起部分にも多く存在することを見いだしていきた。また、AUTS2蛋白質が神経細胞の細胞質において、アクチン細胞骨格系を制御することで、神経細胞移動や神経突起伸長に関与することを明らかにしてきた。本年度においては、ノックアウトマウスの解析からAUTS2がシナプス形成に関与すること、小脳の正常な構造形成に必要とされることを見いだした。一般的に、精神疾患の背景には、多かれ少なかれ脳神経系の発生異常があるであろうと考えられている。我々は、このようなAUTS2の機能が障害されることで脳神経ネットワーク構築が阻害され、その結果として『神経恒常性』が破綻し、各種精神疾患が惹起されるのではないか、と考えている。実際に、AUTS2ノックアウトマウスの行動解析では、不安の低下、記憶力の低下、知覚過敏、社会性行動の低下、などが見出された。このことから、このマウスが精神疾患の動物モデルとして利用出来ると期待している。
2: おおむね順調に進展している
AUTS2分子の機能については、これまでの発表(Hori et al., Cell Rep 2014)に加えて、シナプス形成にへの関与と小脳発生への関与を見いだした(投稿準備中)。また、行動解析から、AUTS2遺伝子の変異によって、各種精神疾患様の行動異常が見出されることを報告した(Hori et al., PLoS One 2015). さらに、新たな疾患アリルを作成中であり、2年度にはその解析に入ることができる。
(1) ヒト変異遺伝子型AUTS2を持つマウス系統の解析現在は、統合失調症型、ASD型の変異をAUTS2マウスゲノム中に導入したマウスモデルを作成中である。それらが得られたあと、それぞれの系統におけるAUTS2の遺伝子発現について、異常があるかどうか検証する。次に、それぞれの系統において、神経細胞移動や神経突起伸長、シナプスの形成と機能、について、異常があるかどうかについて調べる。さらに、生後において(致死の場合にはヘテロ接合体のみ)、一連の行動解析(協調運動観察、オープンフィールドテスト、高架式十時迷路、3チャンバーテスト、恐怖条件付記憶、水迷路、プレパルスインヒビション、その他)を行い、それぞれのヒト精神疾患(統合失調症とASD)と、それに相当する変異を持ったマウス系統の病態に関連性があるかどうか、詳しく検討する。(2) ヒト変異遺伝子型AUTS2の分子機能異常の解析上記(1)と同じ変異の入ったマウス(あるいはヒト)AUTS2蛋白質をコードするcDNAを作製し、発現ベクターに入れる。そして、それを培養細胞株(N1E-115細胞)または海馬初代培養細胞に遺伝子導入し、それぞれの変異AUTS2蛋白質が、Rac1やCdc42の活性を制御しアクチン細胞骨格を再構成する機能を維持しているのか、神経細胞移動や突起伸長を促す機能を維持しているのか、などについて調べる。AUTS2 KOマウスの形態的表現型を、変異型分子でレスキューできるかどうかも調べる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
Mech Dev
巻: 140 ページ: 25-40
10.1016/j.mod.2016.02.004
PLoS One
巻: 10 ページ: e0145979
10.1371/journal.pone.0145979
Neurosci Res
巻: 105 ページ: 49-64
10.1016/j.neures.2015.09.006