ハプトネマはハプト藻類に特異的に存在する微小管系の運動装置であり、基質への付着と滑走運動、餌の捕獲、移動、取り込み、機械刺激の受容と逃避反応など、多彩な機能を持つことが知られている。特に、機械刺激の受容と逃避反応を行う際のハプトネマのコイリングは、数ミリ秒という短い間に100μmという長いハプトネマがカルシウム依存的に屈曲し、スプリング状にコイリングし縮む現象である。ハプトネマを構成する分子に関する情報はほぼ皆無であり、そのメカニズムはこれまでの微小管系運動の常識では理解できない。本研究では、依然ベールに包まれたままであるこの不思議なコイリング機構と、それを可能にする分子基盤を解明することを目的として進めた。まず、カルシウム依存的に起こるコイリングが微小管の脱重合阻害剤であるタキソールにより阻害されることを明らかにした。この際、ハプトネマは一定周期で屈曲を示すが、カルシウム非存在下でもこの屈曲が見られることから、コイリングには微小管自体のダイナミクスが必要であることが示唆された。一方、ハプト藻Chrysochromulina sp.のハプトネマに含まれる7本の微小管の配置について、ネガティブ染色による電子顕微鏡観察により調べた結果、微小管の1本が他の微小管の周りに螺旋状に取り巻いていることを発見した。チューブリンのみから重合した微小管はまっすぐの構造であることから、何らかの構造タンパク質が結合していることを示唆している。実際、ネガティブ染色像からは特徴的な分子の存在を確認した。さらに、微小管に結合しているタンパク質の同定を目的として、RNAseqによるChrysochromulina sp.発現遺伝子の解析と、LC-MS/MSによるハプトネマ構成タンパク質の同定を試みた結果、ハプトネマを構築している26種類のタンパク質候補を特定することができた。
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