研究実績の概要 |
高等植物の細胞膜近傍ではアクチン繊維が細胞膜に沿って配向し, その極性もほぼそろっている。小胞体に結合したミオシンは配向と極性が揃ったアクチン繊維に沿って一定の方向に動くので,植物細胞では方向をもった大きな流れ(原形質流動)がおきている。細胞膜に沿ってアクチン繊維が一定の極性をもって配向するのはどのような機構によるのであろうか?その有力なモデルとして,ミオシンとアクチン繊維および小胞体の3つの分子マシナリーが相互作用する結果,自律的にアクチン繊維が極性を揃えて配向し,運動超分子マシナリーである原形質流動装置が構築される説が有力となっている。 本研究では,まず,植物細胞を模した幅,深さ,直径がそれぞれ10 um, 10um, 100 umのリング状の基板を以下a~dの要領で作成した。a: Cad (コンピュータ支援設計)で設計図書く。b: Cadで設計した図をクロム,レジストコートガラスにレーザー描画装置で描いたマスクを作製する。d:マスクをモールドの上に乗せ,UV照射によりマスク描画に沿ってモールドを溶かしたモールド型を作製する。e:モールドの型に,PDMSを入れて固めPDMS型を作る。f:PDMS型に紫外線硬化樹脂NoA61をいれて,紫外線で照射してNoA61による基板を作製する。以上の工程で作製したリング状のNoA61基板にシロイヌナズナのミオシンを結合させ,そこにシロイヌナズナのアクチン繊維, ATPを入れたところ,アクチン繊維の濃度が細胞内と同程度(~0.5mg/ml)のときは,リングに沿ったアクチン繊維の運動が見られた。しかし,その方向は両方向にほぼ均等で,1方向性の運動は見られなかった。アクチン繊維は植物細胞の中では束化している。そこで,束化を試みることにした。メチルセルロースで束化したところ時間とともに方向が揃っていき,驚くべきことに1時間後には1方向性の運動が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクチン繊維が極性を揃えて配向しなければ,ミオシンはオルガネラを結合したままランダムに動き,1方向性の原形質の運動,つまり原形質流動を引き起こすことはできない。原形質流動形成の最も鍵であり,また,最も謎は,「どのようなメカニズムにより細胞内でアクチン繊維が極性を揃えるか」である。最近,有力となっている仮説の1つにアクチンとミオシンの相互作用によってアクチン繊維の方向を揃えるという「アクチン-ミオシン自律配向モデル」がある。この仮説を検証し,また,この仮説が正しいときには,そのモデルが成り立つための条件を明らかにするために,植物細胞を模倣した微小空間を作製し,そこにアクチン,ミオシン, ATPをいれた。H27年度の研究により,驚くべきことに,リング状の微小空間と,アクチン繊維の束化という必要条件がみたされれば,アクチン繊維の1方向の運動を形成することは可能ということがわかった。運動はリングに沿っていたが,その方向は,最初はランダムであった。しかし,時間を追うごとに方向が揃ってきて1時間後には1方向の運動になった。アクチン繊維の横方向の相互作用はアクチン繊維が同じ方向に運動しているときは強く,そのため方向が揃っていくと考えられる。つまり,H27年度の研究により,もっとも原形質流動にとってもっとも重要であったアクチン繊維の配向はアクチンとミオシンの相互作用によってアクチン繊維の方向を揃えることがわかった。
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