細胞質ダイニン (以下、ダイニン) は微小管上をマイナス端方向に運動する分子モーターであり、細胞分裂や細胞内物質輸送に関わっている。細胞内のいろいろな場所で、かつ必要とされる時にスイッチオンして働き、細胞内の多様な役割を担っているが、ダイニンの主要な構成要素である重鎖の遺伝子は、哺乳動物に至るほとんどの真核細胞において1種類しか存在せず、ミオシンやキネシンなど他の分子モーターとは大きく異なる。多様な役割に対応するために、ダイニンは自己制御機能や他の調節タンパク質による制御機構が働いている。本研究では、その中でダイニン調節タンパク質であるダイナクチンによる制御機構の詳細を明らかにすることを目的とした。 ダイナクチンは約10種類のサブユニットからなる複雑な超分子複合体であるが、その中でダイニンに直接結合するDCTN1サブユニットに注目した。DCTN1サブユニット中のコイルドコイル(CC1)領域はダイニン中間鎖に結合するドメインで、途中で折れ曲がり頭部から突き出した構造をとっている。DCTN1サブユニットにはA型とB型があり、A型に存在するリジンリッチ(K-rich)ドメインを、B型では欠いている。CC1領域とK-rich領域の変異体やその領域の断片を作製して、微小管に対する親和性とダイニンの運動に与える影響を調べたところ、DCTN1サブユニット中で、CC1はダイニンの微小管親和性を著しく低下させること、K-rich領域をもたないB型では、ダイニンが微小管に結合することはほとんどないが、A型ではK-rich領域がその作用を補償して微小管親和性の低下を抑えることが明らかになった。このことは、DCTN1内の領域(ドメイン)が調節を行う、分子内調節機構が存在することを意味している。
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