幾つかの微生物(シアノバクテリアや高度好塩古細菌)はその細胞内にタンパクで構成されたガス小胞を形成し、自身の浮力を調整する機構を有している。ガス小胞形成は細胞の浮力を向上させるため、鞭毛等の運動器官の無い生物種にとって光・酸素・有機物の獲得に大きく貢献する。ガス小胞合成遺伝子群を保有しているにも関わらずガス小胞形成が確認されない微生物種も数多く存在しており、その生成機構、生理学的機能、起源に関して未知な部分が多い。本研究で対象とするセラチア属細菌は既知のガス小胞形成微生物とは異なり、多様な形状のガス小胞を形成する他、べん毛運動とガス小胞形成の二種の運動能を使い分ける特性を有している。初年度では、多様なガス小胞形成に関与する遺伝子の同定を行った。平成28年度では、各遺伝子の機能の詳細を解析するとともに、二種の運動能を使い分ける機構解明を目的とした。 ガス小胞形成をコードする遺伝子を含むオペロンに存在する各遺伝子を過剰発現させたところ、ガス小胞の補助的構成因子、さらには転写制御因子をコードする遺伝子の過剰発現によりガス小胞形成が抑制された。このことから、各遺伝子が正常に発現することによりガス小胞形成が行われることが示された。また、ガス小胞のアッセンブリーに関与する遺伝子を過剰発現することにより生育阻害が確認され、微生物の浮力と生育を関連づける新たな相関が示された。さらに、当細菌は酸素濃度と栄養条件を感知してべん毛運動とガス小胞形成を調製していることが示された。以上の結果により、ガス小胞形成に関与する様々な因子が明らかとなった。
|