研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
15H01318
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
進藤 麻子 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (60512118)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 細胞骨格 / 形態形成・修復 |
研究実績の概要 |
本研究では、In vivoにおける組織の形態形成と修復過程を担う細胞集団動態の駆動力の制御機序を解明するため、アフリカツメガエル胚(Xenopus laevis)をモデル動物として、細胞骨格アクチンとセプチンおよびモーター蛋白質であるⅡ型ミオシンからなる細胞骨格複合体の役割とその制御機構の探索と検証を行った。本年度は、アフリカツメガエル胚組織を対象とする電子顕微鏡観察のための条件検討、および蛍光標識蛋白質を用いた新たな細胞駆動力の探索、さらにそれらの制御機構の解析を行った。 電子顕微鏡観察のためのアフリカツメガエル胚の固定法として、化学固定、急速凍結法を行った。樹脂包埋ののち、超薄切片を作成し、アクチンフィラメントが蓄積すると予想された細胞内領域の観察を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行った。その結果、固定法の改善、および胚組織標本から標的領域を高効率で観察する方法の改善が必要であることが判明した。 固定法の至適化は課題ではあるが、標的領域の画像取得には、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB/SEM)を用いて広い範囲を撮影することで可能になった。一方で、細胞集団の中でアクチンやミオシン、セプチン駆動力として機能する細胞が限定されており、さらにそれらの細胞内でもアクチンフィラメントの蓄積が見られる領域が時間的・空間的に限局していることから、蛍光標識蛋白質によるライブイメージングとの併用は必須であると考えられた。 In vivoの組織形態制御において、セプチンのアクチン・ミオシンに対する機能は不明点が多いことから、蛍光標識蛋白質の観察によるセプチンの機能も検証した。さらに、細胞集団の駆動力を制御すると予想された制御因子群のノックダウンも行い、組織形態形成過程および組織修復過程における細胞骨格およびモーター蛋白の動態への影響を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アフリカツメガエル胚組織の電子顕微鏡観察のための固定法の至適化が課題として残っており、この点において初年度の計画期間に延長が必要となった。本研究でアフリカツメガエル胚の組織に対し、通常の電子顕微鏡観察のための化学固定法を試みたところ、細胞の萎縮や、細胞膜の破壊が生じた。アフリカツメガエル胚に適した緩衝液で固定法の改変を行ったがさらなる改善の余地がある。さらに急速凍結法を試験的に行ったところ、組織の厚みと胚組織特有の脆弱性から、凍結時の高圧化での細胞および組織形態の維持が困難であった。これらを踏まえ、アフリカツメガエル胚組織の電子顕微鏡観察に最適の状態を維持する固定法の探索と開発、および化学固定法と凍結法の組み合わせる方法を検証中である。 一方で、並行して行った蛍光標識蛋白質を用いた解析により、目的としていたセプチンの機能を検証し、当初想定していたアクチン・Ⅱ型ミオシンへの影響に加え、新たな細胞骨格とモーター蛋白質の関与が示唆された。特に、組織の修復過程においては、アクチン・Ⅱ型ミオシンのみならず、複合的な細胞骨格およびその制御因子の組み合わせが必要であることが示唆され、組織の形態形成との差異が見出された。さらに、アクチン・Ⅱ型ミオシンの動態に影響を与えると考えられていた細胞内カルシウム動態の解析を開始し、特に組織修復過程における細胞骨格と細胞内カルシウムの関係に新たな知見が得られた。また、電子顕微鏡解析の遅れを調整するため、次年度の計画を前倒しして行った制御候補因子のノックダウンの影響も検証した。組織の形態形成過程および修復過程双方において、同様の機能を果たすと考えられていた制御候補因子群が異なる役割を持つ可能性が示唆されるなど、今後の研究の発展の基礎が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
電子顕微鏡による解析は、これまで見られなかったin vivoにおける細胞骨格の役割が検証可能となる情報を得られることが期待されるため、今後も固定法の最適化を中心に検証を進める予定である。一方で、成果が得られた蛍光標識蛋白質を用いたアクチン・Ⅱ型ミオシンの動態解析は今後も継続し、特にセプチンの役割と候補とした制御因子群の機能の解析を進める。さらに、新たに判明した別の細胞骨格およびモーター蛋白質 (非典型ミオシン) の関与も同様の方法で検証を続けていく。非典型ミオシンは多数報告されており、今回検証した非典型ミオシンと類似した機能をもつミオシンが存在するかを検証していく。これは、主要な細胞駆動力として考えられてきたアクチンとⅡ型ミオシンが、その他の細胞骨格とモーター蛋白質と複合的に機能することが見出されたことから必要な検証である。 これまで主に標的蛋白質の機能阻害法としてモルフォリノアンチセンス法によるノックダウン法を用いたが、今後はゲノム編集技術を試行し、両方法を併用しながら、標的蛋白質の機能を検証していく。また、細胞内カルシウム動態や細胞骨格を1細胞レベルで操作する方法として、今後は光操作技術を駆使してより正確な阻害実験と機能解析を行っていく。また、胚組織の形成過程と修復過程の双方を対象として研究を行ったことで、現象によって細胞集団の駆動力にも多様性がある可能性が見出された。このことから、今後はそれぞれの組織形態の制御に適した細胞駆動力の多様性が生み出される機構が重要な研究課題の一つとなりうると考えられる。
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