病原細菌の持つ IV 型分泌系は細菌感染において中心的役割を果たす超分子マシナリーである。 20 種類ほどのタンパク質が高度に組織化されて細菌の内外膜にわたって構築されるこの複合体は、細菌の病原性や宿主の免疫応答からの回避に必要な様々な細菌因子を宿主細胞の細胞質に直接輸送する。しかしながらその分子構造や駆動メカニズムはまだほとんど解明されていない。本研究課題では、病原細菌レジオネラの持つ Dot/Icm IV 型分泌系の中核(コア)複合体を含んだ全体構造を明らかにすることを長期的目標とし、特にコア複合体に相互作用する内膜および外膜複合体に着目して、主に電子顕微鏡法、生化学的手法による解析を行った。 当初計画していた、クライオトモグラフィーによる全体構造解析は、様々な試みにもかかわらず、細胞密度を下げるために必要なミニセル形成を効率良く行なうことができなかったため実行できなかった。しかしながら、コア複合体に相互作用する IV 型複合体構成タンパク質をレジオネラ Dot/Icm タンパク質群から新たに見つけ出すことに成功した。このタンパク質は IV 型複合体の形成には必須ではないが、コア複合体の中の外膜部分複合体に付与される部分構造を形成することが電子顕微鏡解析により示された。また、コア複合体のクライオ電子顕微鏡法による詳細な構造解析に向けての端緒として、コア複合体を形成する一つのタンパク質にタグを導入することによって高効率に精製を行える条件を確立することができた。 今後、これらの成果を足掛かりとして、 IV 型分泌系の全体構造を詳細に明らかにしていくため、クライオ電子顕微鏡法によるコア複合体の3次元再構成、内膜反転ベシクルによる内膜部分複合体の構造解析を中心とした研究を展開することを計画している。
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