研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
15H01325
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
安永 卓生 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (60251394)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / 糸状仮足 / 細胞運動 / クライオ電子顕微鏡法 / 電子線トモグラフィー法 / アクチン / ファシン / アクチン繊維束 |
研究実績の概要 |
神経細胞の糸状仮足を構成するアクチン繊維束は、仮足の伸張と形態維持のために重要な役割を担っている。しかし、その束化形成のメカニズムは構造学的に明らかにはなっていない。培養した神経細胞をそのまま急速凍結し、今回、クライオ電子線トモグラフィー法を使いて、その3次元構造を解明し、その後、画像処理法を通して、束化因子であるファシンの結合様式を明らかにした。 神経細胞の糸状仮足の中では、約30本程度のアクチン繊維が束化し、その束が複数結合していた。安定した束化には30本程度が単位となるという物理的モデルと一致するものであり、再構成束で20本程度が限界と言われたものとは異なる結果となった。このことは、糸状仮足内では、タンパク質密度、修飾タンパク質に加え、流れ、外力などにより安定した束を形成することができることを示唆している。 次に、アクチン繊維の構造を調査したところ、六法格子をつくっていると共に、決まったらせん対称性を持つと共に、隣のアクチン繊維とモノマー分のズレを生じていた。また、隣り合ったアクチン繊維間は、6つのうち4つと決まった周期で結合している密度があり、ファシンの密度に対応する事が分かった。このファシンノ結合は、それぞれ半周期の2/3ずれていた。 このファシンに対応する密度に、X線結晶解析で示された原子モデルをフィットしたところ、アクチン/ファシンの結合部位と示されたファシン上の部位がちょうど、電気的に反対の荷電をもつアクチン上の部位と結合するモデルを構築する事が出来た。このモデルは、電子顕微鏡法で解かれた密度と原子モデルを相関法によりフィットしたものと一致するモデルであった。ファシンとアクチンは、2つの結合部位をもつサイトと1つの結合部位をもつサイトがそれぞれ隣り合ったアクチン繊維を繋ぐ。 これらの事実と原子モデルから、我々は、アクチン繊維束の形成メカニズムを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経細胞の細胞内のアクチンフィラメントに関しては、ファシンとの結合様式に関する新しいモデルを構築できるまでの分解能のある三次元構造を得ることに成功している。 毛乳頭細胞の細胞動態に関しては、イオン液体による細胞観察法を試行し、乾燥するよりはよい観察法であることを示すことが出来ている。イオン液体そのものではまだ撮影ができず、固定と蒸着が必要である点においては、今後、検討が必要である。これまでの結果から、動的な状態をそのまま、低温SEMを用いて観察できる可能性は十分にある。 再構成系アクチン繊維に関しては、画像処理法の更なる開発を進め、かつ、電子顕微鏡自身の整備も行ってきた。来年度に向け、撮影・解析が出来る状況が整った。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内でのアクチン繊維の動的構造に関しては、糸状仮足の根元や先端などを効率良く観察するクライオCLEM法などの方法を開発し、その結果として、糸状仮足におけるアクチン繊維束の伸張及び短縮のメカニズムについても明らかにしていきたい。 毛乳頭細胞の動態に関わるSEM観察については、イオン液体による手法をより具体化し、動的構造を固定し、観察できる手法を開発し、糸状仮足、葉上仮足を通して細胞及び細胞塊が動く姿を捉えていきたい。 再構成アクチン繊維においては、ミオシン分子との結合によるアクチン繊維の構造変化について、アクチン繊維を単粒子として取り扱い、更に、分子数を増やすことにより構造を解明し、アクチン繊維のもつ協同性の由来について明らかにしていく。
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