研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
15H01327
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
八木 俊樹 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (40292833)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鞭毛・繊毛 / 軸糸 / ダイニン / 微小管 / 運動制御 |
研究実績の概要 |
鞭毛・繊毛運動の基礎はモーター蛋白質・ダイニンによる微小管の滑り運動である。ダイニンの活性が時間的・空間的に制御されることにより、この滑り運動は屈曲へと変換されると考えられているが、その機構の詳細はわかっていない。われわれはこれまでの研究から、軸糸(鞭毛・繊毛の内部構造)の直径サイズによりダイニンの活性が制御されるという仮説を提唱している。本研究では、この仮説を検証するために、屈曲運動中の鞭毛において、軸糸の直径変化が実際に生じるのかを調べる実験を行っている。 1)3次元蛍光顕微鏡による軸糸直径変化の観察 屈曲運動中の軸糸直径変化を検出するために、軸糸上の複数点の位置をナノメートルスケールで3次元的に決定する方法を工夫した。目印として量子ドットを用いた。まず、それを鞭毛軸糸に効率よく結合させる方法を確立した。遺伝子工学的な手法により、鞭毛内部構造をビオチン化し、そこにアビジン化量子ドットを結合させようとしたがほとんど結合しなかった。そこで、軸糸タンパク質のアミノ基を介して化学的にビオチン化する方法に変更したところ、軸糸表面に量子ドットが効率よく結合することがわかった。これまでに、軸糸の in vitro の運動を阻害しない修飾条件を見出し、ATP存在下に運動する軸糸の動きを3次元で追跡する実験を始めたところである。 2)軸糸直径を人為的に変えた変異株の作成 これまでの研究から、軸糸直径は鞭毛中心構造と周辺微小管の架橋構造との拮抗で決まる可能性が示唆された。ここでは、直径増大株の運動性を観察するために、鞭毛中心構造を形成するスポークの長さを伸ばした株を作成し、その運動性を調べた。その結果、予想に反して、運動性に大きな変化は見られなかった。現在、この株の軸糸構造を電子顕微鏡を用いて観察し、実際にスポークが伸長しているのかを検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この実験では、in vitro における軸糸の運動性を保持したまま、そこに量子ドットを結合させる方法の確立が重要である。これまでにそれを確立することができたが、最適な結合条件を見つけるのに時間を要し、実験が遅れ気味となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1)運動中の軸糸の直径サイズの解析: 運動性を保持したまま、量子ドットを効率よく軸糸に結合させる条件が見出された。現在、3次元蛍光顕微鏡を用いた実際の運動計測を開始したところである。今後、計測方法の最適化とデータの解析を行う予定である。
2)軸糸直径の改変株の解析: スポークの長さを変えることを試みたが、改変株では期待通りの運動性が観察されなかった。軸糸直径を変える上で、ターゲットとなる構造(タンパク質)は複数存在する。仮説が正しいとすると、軸糸直径は鞭毛中心構造だけでなく、周辺微小管の架橋構造の改変でも変化するはずである。今後は、スポークだけではなく、架橋構造のコンポーネントも改変して、架橋構造の長さを変えた場合にどのような運動性変化が生じるかも調べ、仮説を総合的に検証したい。
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