研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
15H01331
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
玉腰 雅忠 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (10277254)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 線毛 / 高度好熱菌 / twitching |
研究実績の概要 |
(1)高度好熱菌の線毛の伸張用および収縮用ATPaseの解析:高度好熱菌の4型線毛を伸張するために必要なATPase PilFおよび収縮用ATPase PilTのWalker B配列に含まれるグルタミン酸をアラニンに置換した変異酵素を遺伝子工学的に作製した。それを大腸菌内で発現させ、精製した所、ATP加水分解活性を消失した。それら変異酵素を好熱菌の野生型酵素の代わりに好熱菌内で発現させたところ、変異PilFを発現する株では、線毛による平面運動および線毛に依存して感染するファージに対する感受性を失った。一方、収縮用ATPase PilTの変異酵素を発現する株では、運動能を失ったものの、ファージに対する感受性は失わなかった。 (2)高度好熱菌の線毛構造遺伝子:高度好熱菌Thermus thermophilusの代表株としてHB8とHB27が知られている。それらの線毛構造タンパク質のアミノ酸配列は40%程度の同一性しかない。そこでこれらの遺伝子を取り替えた菌株を作製したが、運動能を失った。 (3)好熱菌の培地成分が平面運動に与える影響:高度好熱菌Thermus thermophilusの代表的な野生株HB8の平面運動能を調べたところ、栄養培地では活発な運動が見られたが、最少培地では運動が抑制された。一方、別の野生株であるHB27は逆に、最少培地の方が活発に運動することがわかった。また、どちらの株も温度が高い方が運動が激しかった。さらに、寒天のメーカーによって運動能が異なることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
好熱菌の線毛の伸張および収縮のためのATPaseについては、ほぼ解析を終了し、平成28年いた度中に論文投稿を行うことを目標としている。また、新規の線毛関連リポタンパク質を発見し、他のサブユニットとどのように相互作用するかを調べるためのシステムを立ち上げつつある。さらに、培地成分によって運動能が変化することがわかり、運動能を刺激する物質の探索に道を拓きつつある。一方、当初目的としていた高温下でのリアルタイム観察には着手できていない。装置が大がかりになりそうなことが主因で、今後他の班員と協力して実験系を立ち上げる必要がある。このように一部遅れている研究もあるが、それ以外は予定以上に進んでいる研究もあり、これらを考え合わせると、おおむね順調に研究が進んでいると言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
(1)線毛の収縮用ATPase PilTの加水分解活性を無くした変異酵素を好熱菌で発現させると、細胞の運動能を失うものの、ファージに対する感受性は野生型とほぼ同程度であった。これはPilTの遺伝子破壊株とは異なる表現型であり、その原因を探る必要がある。PilTの代わりに機能するタンパク質PilT2が知られており、本好熱菌でもその遺伝子が見つかっていることから、その遺伝子破壊株を作製して機能解析を行う。 (2)新規に見出したリポタンパク質が外膜チャネル以外のサブユニット、特に内膜タンパク質と相互作用するのかどうかを調べ、リポタンパク質の機能解析を行う。具体的には、タグを付加したリポタンパク質を好熱菌で発現させ、そのタグに対する抗体を用いて相互作用タンパク質を探索する。 (3)培地成分によって細胞の運動能が異なることがわかったので、培地成分を分解して刺激物質を特定することを試みる。さらには、その成分に向かって好熱菌が異動するのかどうかを調べる。 (4)高度好熱菌Thermus thermophilusには代表的な野生株としてHB8とHB27が知られているが、これらの運動能を比べると、HB8の方が激しく運動する様子が観察されている。2つの株のタンパク質を比べると、線毛構造タンパク質のアミノ酸配列は高々40%程度しか一致しない。そこで、これらの遺伝子を取り替えて、運動能が変化する稼働かを調べる。
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