高度好熱菌Thermus thermophilusが行う平面運動は、4型線毛の収縮により起きると考えられている。そのための2つのモーター分子PilT1およびPilT2の遺伝子を破壊し、寒天培地上で生育させたコロニーの端を顕微鏡観察することによって運動能を判定した。その結果、PilT1の遺伝子破壊株では運動能力がほぼなくなる一方、PilT2の遺伝子破壊株では野生株と比べてやや低下した程度だった。また、線毛に依存して感染するファージに対する、各変異好熱菌の感受性を調べたところ、PilT1の遺伝子破壊株ではプラーク数が減少すると共にプラークのサイズが非常に小さくなったが、PilT2の遺伝子破壊株ではプラークの大きさと数は野生株と同程度だった。またこれらの遺伝子を共に破壊した株は、PilT1の遺伝子を単独に破壊した株と同様の表現型を示した。 次にPilT1のATPase活性に必須のWalker B配列のうち、よく保存されたグルタミン酸をアラニンに置換してATP加水分解活性を無くした変異酵素の遺伝子を野生型遺伝子と取り替えた変異好熱菌を作製した。その変異株を寒天培地で生育させたところ、大部分の細胞はPilT1遺伝子破壊株と同様に運動能をほとんど失ったが、一部の細胞は協同性を失った様な運動を示した。またファージにより形成されるプラークは野生株に比べてやや小さくなる程度で、プラーク数は減らなかった。この変異株のPilT2の遺伝子を破壊したところ、その非協同的運動が消失し、ファージに対する感受性もPilT1遺伝子破壊株と同程度に低下した。このことは、PilT2がやはり何らかの運動現象に関わることを示す。また、PilT1の遺伝子破壊株ではPilT2を発現していると思われるが、その運動能をほとんど失うことから、PilT2はPilT1が存在する時にのみ機能を発揮することが示唆された。
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