細菌べん毛モーターは,細胞膜を通過する共役イオンの流れから得られる自由エネルギーを回転運動へと変換する運動マシナリーである.モーターは,リング状にタンパク質が重合した回転子とその周囲に配置した最大約10個の固定子ユニット(Mot複合体)から構成される.Mot複合体の個数は,モーターにかかる負荷条件や共役イオン駆動力によって柔軟に制御されていることが最近明らかになってきた.本研究では,主に大腸菌べん毛モーターの回転子と固定子を研究対象として,細胞内で機能する超分子複合体の分子ダイナミクスを1分子レベルで可視化し,その構築過程・制御機構の解明を目指した. 本年度は以下の3点について研究結果を得た. ・回転子と固定子を別の蛍光色素でラベルして同時観察することができた.また,モーターへの入力エネルギーをゼロにする条件にすると固定子がモーターから外れることを確認できた.その後,入力エネルギーを回復させると,モーターの組み込み数が元の値よりも多くなるという新しい現象をプレリミナリーではあるが見出した.モーターの再配置によって,固定子組み込み位置が最適化された可能性があり,今後も研究を継続したい. ・光ピンセットによって,モーター固定子の組み込み数の定量を試みた. ・昨年度に引き続き進めている2種類のイオンで動くモーターについて,入力エネルギーの蛍光観察と原子吸光計測による定量および単位固定子ユニットの出力解析により,モーター入出力特性の定量に成功した.
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