研究領域 | 高精細アプローチで迫る転写サイクル機構の統一的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H01354
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤井 穂高 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (30302665)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 転写 / 分子生物学 / ゲノム生化学 / エピジェネティクス / クロマチン |
研究実績の概要 |
転写制御の分子機構の解明には、転写制御を受けているゲノム領域の生化学的・分子生物学的解析が欠かせない。そのためには当該ゲノム領域の生化学的単離が必要である。申請者らは、これを実現するため、生体内のクロマチン構造を保持したまま特定のゲノム領域を単離する新規な方法として、insertional chromatin immunoprecipitation (iChIP) とengineered DNA-binding molecule-mediated ChIP (enChIP)からなる遺伝子座特異的ChIP法を世界に先駆けて開発した。本研究提案では、遺伝子座特異的ChIP法を用いて、転写制御を受けている特定ゲノム領域を単離して分子生物学・生化学的解析を行う際の方法論を確立するとともに、これを用いて転写制御機構の解明を目指す。 当該年度には以下の研究を行った。 1. Pax5遺伝子転写調節機構の解明:ニワトリの成熟B細胞株であるDT40を用いて、B細胞特異的にPax5遺伝子プロモーター領域と相互作用しているゲノム領域を同定した。その領域を、CRISPR系を用いて欠失させたところ、Pax5遺伝子の発現が減少した。この結果から、この領域がPax5遺伝子の発現を調節している可能性が示唆される。 2. Foxp3遺伝子転写調節機構の解明:iChIP-Seq法を用いて、マウス個体から単離したT細胞で、T-reg特異的にFoxp3遺伝子TSS近傍に結合するゲノム領域を同定した。それらの領域はエンハンサー等Foxp3遺伝子の転写制御領域である可能性がある。 3. 3xFLAG-dCas9 Tgマウスを用いたenChIP法による転写機構の解析:CAGプロモーターを用いて、全身の細胞で3xFLAG-dCas9 Tgがゲノム中に挿入されているTgマウスを作製し、ライン化した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. Pax5遺伝子転写調節機構の解明:B細胞特異的にPax5遺伝子プロモーター領域と相互作用しているゲノム領域の同定と、欠失実験による相互作用の意義の解明が終了した。
2. Foxp3遺伝子転写調節機構の解明:マウス個体から単離したT細胞を用いて、T-reg特異的にFoxp3遺伝子TSS近傍に結合するゲノム領域の同定が終了した。
3. 3xFLAG-dCas9 Tgマウスを用いたenChIP法による転写機構の解析:Tgマウスの作製が終了した。
|
今後の研究の推進方策 |
1. Pax5遺伝子転写調節機構の解明:前年度までにPax5遺伝子調節に重要であることが判明したゲノム領域に結合する分子を、その領域に対するenChIP解析によって同定し、更にsiRNAを用いたノックダウンやCRISPR系を用いたノックアウトによるloss-of-function解析によって解明する。
2. Foxp3遺伝子転写調節機構の解明:本年度は、enChIP-Seq法等を用いて、ゲノム間相互作用の確認を行う。また、こうした領域がFoxp3遺伝子の転写誘導及び維持に与える影響を評価するため、CRISPR系等を用いてこの領域を欠失させたマウスを作製し、その領域がFoxp3遺伝子転写に果たす役割を解析する。また、ゲノム間相互作用の形成及び維持に関与する分子を同定し、loss-of-function実験によって、それらがFoxp3遺伝子転写調節に果たす役割を解明する。最後に、上記の解析結果を総合して、Foxp3遺伝子転写調節機構の包括的な理解を目指す。
3. 3xFLAG-dCas9 Tgマウスを用いたenChIP法による転写機構の解析:本年度は、様々な組織での3xFLAG-dCas9の発現を免疫ブロット解析及び抗FLAG抗体-FITCを用いた細胞内染色とフローサイトメトリーにより確認する。その後、適当な組織にgRNA発現レトロウイルスベクターを感染させ、enChIP解析を行って、標的ゲノム領域が十分な効率で単離できるか否かを検討する。次に、このマウスを用いて、主に免疫系の発生・制御に関わる遺伝子の転写制御を解析する。
|