転写制御の分子機構の解明には、転写制御を受けているゲノム領域の生化学的・分子生物学的解析が欠かせない。そのためには当該ゲノム領域の生化学的単離が必要である。申請者らは、これを実現するため、生体内のクロマチン構造を保持したまま特定のゲノム領域を単離する新規な方法として、insertional chromatin immunoprecipitation (iChIP) とengineered DNA-binding molecule-mediated ChIP (enChIP)からなる遺伝子座特異的ChIP法を世界に先駆けて開発した。本研究提案では、遺伝子座特異的ChIP法を用いて、転写制御を受けている特定ゲノム領域を単離して分子生物学・生化学的解析を行う際の方法論を確立するとともに、これを用いて転写制御機構の解明を目指す。 当該年度には以下の研究を行った。 1. Pax5遺伝子転写調節機構の解明:ニワトリの成熟B細胞株であるDT40を用いて、B細胞特異的にPax5遺伝子プロモーター領域と相互作用しているゲノム領域を同定した。その領域を、CRISPR系を用いて欠失させたところ、Pax5遺伝子の発現が減少した。また、その領域では、エンハンサー特異的なヒストン修飾が存在していた。この結果から、この領域がPax5遺伝子の発現を調節している可能性が示唆される。 2. Foxp3遺伝子転写調節機構の解明:iChIP-Seq法を用いて、マウス個体から単離したT細胞で、T-reg特異的にFoxp3遺伝子TSS近傍に結合するゲノム領域を同定した。それらの領域はエンハンサー等Foxp3遺伝子の転写制御領域である可能性がある。現在、in vitro enChIP-Seq法を用いて、iChIP-Seq解析の結果を確認している。 3. 3xFLAG-dCas9 Tgマウスを用いたenChIP法による転写機構の解析:CAGプロモーターを用いて、全身の細胞で3xFLAG-dCas9 Tgがゲノム中に挿入されているTgマウスを作製し、ライン化した。
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