研究領域 | 高精細アプローチで迫る転写サイクル機構の統一的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H01355
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
別所 康全 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (70261253)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 転写 / 発生 / パターン形成 / ロバスト性 / 体節 |
研究実績の概要 |
脊椎動物胚の最も尾部には、体節の原基である未分節中胚葉が存在し、そこで一群の遺伝子の転写が周期的にONとOFFを繰り返して振動している。その周期性を利用して体節の分節化が周期的におこり、その結果として規則正しい分節化構造が形成される。これまでにNotchシグナルの抑制因子であるNrarpをノックアウトすると分節化構造形成のロバスト性が低下することを見いだしており、本研究では、未分節中胚葉において振動遺伝子の転写を細胞/遺伝子座レベルで解析することによって、分節化構造形成のロバスト性が細胞間の転写の同調性によるものであること、さらにその同調性のメカニズムを明らかにしようとしている。 Nrarpノックアウトマウス胚の未分節中胚葉においてHes7、Lfngなどの振動遺伝子の転写を細胞/遺伝子座レベルで検出した結果、野生型胚に比べてNrarpノックアウトマウス胚では、転写がOFFになっている領域/タイミングの細胞で転写が活性化されている割合が高かった。このことから、Nrarpノックアウトマウス胚では転写を同調させる能力が低くなっていることが示唆され、同調性機構にNrarpが関与していることが考えられた。また、転写がOnとOffになっている領域/タイミングの細胞では、野生型胚でも転写が活性化されていない細胞が存在していた。この結果から、転写は活性化される条件であっても確率的におこると考えられた。 野生型胚およびNrarpノックアウトマウス胚をバルプロ酸に暴露することで環境の撹乱をおこなうと体節形成に異常が生じるが、タイムコースをとってバルプロ酸が体節形成のどのステップを妨げているかを検証している。現段階では遺伝子発現の振動を利用して分節化のプレパターンをつくるステップを撹乱しているという結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写をマウス胚において、細胞/遺伝子座レベルで検出することに成功している。これまでの組織レベルでの解析では、Nrarpノックアウトマウスで遺伝子発現振動の同調性が低下していることは定性的に観察されたが、本解析で定量的に解析できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
さらに遺伝子の転写の細胞/遺伝子座レベルでの解析を進める。バルプロ酸で撹乱を加えた後、野生型胚では速やかに遺伝子発現振動が細胞間で同調性を取り戻すが、Nrarpノックアウトマウス胚では同調性を取り戻すために、より長い時間を要するが、このことを定量的に解析する。さらに数理モデルを利用して、そのメカニズムを解明する。
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