研究領域 | 細胞死を起点とする生体制御ネットワークの解明 |
研究課題/領域番号 |
15H01366
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白崎 善隆 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70469948)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 実時間1細胞分泌測定 / サイトカイン / ダイイングコード |
研究実績の概要 |
<研究の目的>本研究は、細胞死を起点とする生体制御ネットワークを媒体するダイイングコードの放出動態を1細胞レベルで実時間計測する。これにより、詳細が未知であるダイイングコードの放出メカニズムや細胞死制御機構との時相関および細胞間のばらつきに関する定量的情報を提供する。さらに、分子拡散を空間的に制御したマイクロチップを利用し、ダイイングコードが媒介する細胞間相互作用を定量的に捉えることを目指す。 <研究実績>本年度は、研究計画に従い、まずは2種類のサイトカインの分泌を同時に測定する系を立ち上げた。また、定量的な分泌時間変動を測定可能とするため、励起光学系をこれまでのlaser-TIRFシステムからLED-TIRFシステムに変更し、抗体・抗原結合の数理的解析を導入することで、どのタイミングでどの程度の量が分泌されるのかを相対的な値ではあるが記述することが可能となった。このシステムを用いてマウスマクロファージ様細胞であるJ774.1にLPSプライミング後AIM2インフラマソーム活性化刺激を与えるとパイロトーシスとともにIL-1βの分泌が短い時間に過渡的に生じる事が示された。さらに2段階にわたるピークも見出され、パイロトーシスに伴うIL-1β分泌は可逆的な膜開孔が生じた際に放出される可能性が示唆された。 一方で、不死化骨髄マクロファージ細胞であるiBMMを用いた場合には、同条件で刺激すると、ある割合で細胞死染色陰性かつ遊走を続ける生細胞からの検出可能な大量のIL-1β分泌が確認された。この事から、IL-1βの分泌機構は従来の想定通り複数存在する事が直接的に確認されたが、より詳細な統計量を得るために広域全反射照明システムの構築を進めている。 並行して、本年度はダイイングコードの一種であるIL-33が誘導するILC2による2型免疫応答を1細胞レベルで可視化する事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画書に記載した2色同時測定法の確立及び定量的測定法・定量的解析法の確立により、分泌活性を分単位で観測する事に成功している。開発した技術を用いたIL-1β分泌の測定では、細胞死を伴う場合と伴わない場合というダイイングコードの本質に関わる分泌様式の違いを見出す事が出来た。しかしながら、同時可視化のための別種ダイイングコードの候補としていたIL-18は細胞腫により発現が異なっている可能性が文献検索により明らかとなり、同時可視化には至っていない。 本年度当初より計画・開発を進めている高感度型の導波路装置は、プロトタイプの購入を終了し、調整・修正を続けている。課題として、励起光源の出力不足が挙げられ、500 mWから1 Wクラスの630nm~660nm光源が必要である。しかしながら、一般に販売されているレーザー等では300万円程であり、資金不足により解決に至っていない。現在、出力安定性が保証されない安価なレーザーを試作出来ないか交渉している。 一方、次年度に予定しているダイイングコードを介した細胞間コミュニケーションの題材として、本研究ではILC2細胞を提案したが、本年度において、ダイイングコードの一種であるIL-33およびIL-25によって2種類の2型サイトカインIL-5、IL-13の分泌が検出可能である事を見出している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度見出した生きた細胞からのIL-1β分泌は非常に重要な課題であり、再現性・細胞腫間の違い、分泌メカニズムの同定を進めたいと考えている。特に、分泌メカニズムにおいては、本領域で配布されている阻害剤を用いた検討を進めたいと考えている。 本年度は、パイロトーシス以外の細胞死におけるダイイングコードの分泌を可視化するには至らなかった。しかしながら、領域内共同研究においてネクロトーシスに伴うHMGB1の分泌の可視化の準備を進めており、ヒトHMGB1において、感度はあまり高くないが実時間測定に耐え得るアフィニティーの抗体セットを選別する事が出来ている。次年度においては、実際にネクロトーシスした細胞からのHMGB1検出に挑みたいと考えている。 ダイイングコードを介した細胞間コミュニケーションに関して、すでにILC2のサイトカイン応答は可視化できており、次年度は細胞死に伴うIL-33産生を行う細胞腫の選定および共存方法を検討する。
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