公募研究
我々は、TLR3欠損マウスが急性放射線症候群に抵抗性を示す事を見出した。平成27年度は、急性放射線腸障害におけるTLR3のリガンドの検索を行った。in vitroで培養した腸管上皮オルガノイドにガンマ線を照射し漏出する内因性RNAのうち200bp以上のものがTLR3の活性化があった。現在、特異的な配列がないか検索を進めている。TLR3の新規阻害剤に関しては、TLR3の構造解析が終わっているので、構造解析の観点から新規の阻害剤を作成できないか検討を進めている。γ線腹部限局照射12週のBalb/Cのマウスにおいて、線維化している漿膜下の粘膜下層に好酸球の著明な浸潤が認められる。解析の結果、陰窩の細胞死によってATPが遊離し、これによって活性化された筋線維芽細胞がCCL11を誘導して好酸球を遊走させていることが分かった。GATA-1は未熟な骨髄系の前駆細胞から赤芽球、巨核球、好酸球への分化に必須の転写因子である。GATA-1の発現を正にオートレギュレーションするエンハンサーのGATA結合領域(dblGATA)を欠損させたマウスΔdblGATAマウスでは、好酸球が特異的に消失している(Dyer K.D.,et al. J. Immunol. 179:1693,2007)。我々は、ΔdblGATAマウスを解析の結果、腸管粘膜固有層の好酸球が完全に消失していることを確認した。興味深いことに、ΔdblGATAマウスにγ線腹部限局照射を行うと、12週における線維化が顕著に抑制されていることが明らかになり、放射線による線維化に好酸球が促進的に働いていることが分かった。好酸球の活性化には、T細胞や自然リンパ球の関与がないことが実験から明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に計画をしていた急性放射線腸障害におけるTLR3のリガンドの同定に関して、ガンマ線照射後にp53依存的に細胞死を誘導した細胞から漏出してくる200bp以上の内因性RNAがリガンドとなりうることを確認している。おそらく、ステムループ構造をとるものがリガンドになりうると考えられ、今後急性放射線障害の治療のための阻害剤作成にとって有益な情報を得ることができている。このように、TLR3を標的とした急性放射線腸障害の治療法の確立に関して順調に研究計画は進捗していると考えられる。γ線腹部限局照射によって誘導される腸管線維化における好酸球の役割の解析においては、7週齢のBalb/Cのマウスに15 Gyのγ線を腹部に限局照射(腹部以外は3cmの鉛板で遮蔽)することによって慢性腸炎を惹起し、腸管の顕著な線維化が誘導出来る。照射12週後には回腸組織のアザン染色において漿膜下の粘膜下層において間質のコラーゲン沈着のために肥厚する晩発性放射線腸炎の非常に良いマウスモデルを構築できている。平成27年度はこのモデルを用いて非常に興味深い結果を得ている。γ線腹部限局照射後に、陰窩の細胞が恒常的に細胞死、しかもネクローシスを起こしていることが明らかになった。このネクローシスによって、陰窩に接する筋線維芽細胞が著しく活性化されており、線維化が誘導されていることが分かった。これに伴い、粘膜下層の線維化組織において、好酸球の浸潤が誘導されることを明らかにできた。そして、活性化した筋線維芽細胞との相互作用によって好酸球は活性化し、線維化を強力にドライブすることがわかった。このように順調に好酸球の粘膜下への遊走機構、好酸球の活性化機構、トリガーとなる細胞死の様式など研究成果が出ていると考えられる。
平成28年度は、TLR3を標的とした急性放射線口腔粘膜炎の治療法の確立というテーマに着手する。頭頸部腫瘍に対する放射線照射後に、急性の放射線口腔粘膜炎が頻発することが知られているが、その病態機構は良く分かっていない。TLR3欠損マウスの頭部にγ線照射を行い、口腔粘膜炎が軽減するかを検討する。また、TLR3-RNA結合阻害剤が、マウスにおいてγ線照射後の口腔粘膜炎の症状を改善するかを検討する。TLR3-RNA結合阻害剤に関して、放射線腹部照射後の急性放射線障害の治療に加えて、放射線口腔粘膜炎に対しても治療適応の拡大が出来るか検討を行う。γ線腹部限局照射によって誘導される腸管線維化における自然免疫細胞の役割の解析においては、好酸球を標的として治療が可能なことも検証し、論文発表を考えいる。さらに、腸管線維化に関して 腸管粘膜固有層のCD11cintCD11bintレジデントマクロファージの機能解析を行う。腸管粘膜固有層のCD11cintCD11bintは、CD4+マクロファージで、ケモカイン受容体のCX3CR1を特異的に発現している。このマクロファージは、TLR4, TLR7, TLR9を発現しており、TLRリガンド刺激に対して、抑制性のサイトカインであるIL-10を産生した。また、これらのマクロファージは非常に強い貪食能を持っているが、他の樹状細胞と異なり、腸管から所属リンパ節への移動があまり見られなかった。このことから、CD11cintCD11bintサブセットは、腸管常在性のM2マクロファージであり、腸管局所における免疫抑制や組織の修復に重要な細胞であることが考えられる。我々は、線維化を誘導している粘膜下層においてCX3CR1+の細胞浸潤を認めている。放射線照射後の線維化に関して、腸管粘膜固有層のCD11cintCD11bintレジデントマクロファージの機能解析を行う。
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