公募研究
1. Pvrシグナルを誘導する細胞異常の同定申請者は、加齢時に活性化し、細胞死誘導能をもつシグナルとして、Pvrシグナルを同定している。一方で、Pvrシグナルを誘導する要因ははっきりしていない。そこで、平成27年度計画では、Pvrシグナル活性化を誘発する細胞異常の同定を試みた。遺伝学的手法により、1)染色体異常、2)上皮性異常、3)基底膜接着異常、4)細胞成長異常、5)小胞体ストレス異常を誘発し、Pvrシグナル活性への影響を検証した。その結果、scribble遺伝子のノックダウンにより2)上皮性異常を誘発した場合、Pvrシグナル活性が上昇することが明らかになった。この結果は、Pvrシグナルは上皮性不全に応答し、細胞死を誘導するシグナルであることを示唆している。2. JAK-STATシグナルによる細胞死許容メカニズムの検証Pvrシグナルは、細胞死誘導能を持つものの、その誘導効率は極めて低い(強制発現実験における結果)。興味深い点として、Pvrシグナルによる細胞死誘導効率は、人為的加齢誘導状態(Pairedのノックダウン)において大きく上昇する。我々は、Paired低下に相関して、活性化するシグナルとしてJAK-STATシグナルを同定している。平成27年度計画では、Pvrシグナルによる細胞死誘導に対する、JAK-STATシグナルの関与について検証した。その結果、Pvrシグナルは、JAK-STATシグナルと共活性化することで、極めて高効率に細胞死誘導を行うことが明らかになった。一方で、JAK-STATシグナルを単独で活性化しても細胞死は誘発されない。この結果は、JAK-STATシグナルが細胞死を“誘導”するシグナルではなく、Pvrシグナルによる細胞死誘導を“許容”するシグナルであることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度において計画していた、「1. Pvrシグナルを誘導する細胞異常の同定」、「2. JAK-STATシグナルによる細胞死許容メカニズムの検証」について計画通りの検証を行い、一定の成果を上げることができた。これらを考慮し、研究計画は“おおむね順調に進展している”と判断した。ただし、当初計画に加えて以下のような実験を行い、さらなる検証を行っていく必要があると考えている。“1”の検証において、“上皮性異常”がPvrシグナルを活性化する要因であることが示唆されたが、その誘導能は低かった(活性レベルが低い)。これは、上皮性異常が十分に誘発できていない為であると考えられる。そこで、E-CadherinノックダウンやLglノックダウンといった、他の手段により上皮性異常を誘発することで、本検証結果についてさらなる確証を得る必要がある。“2”の検証において、Pvr誘導性細胞死に対するJAK-STATシグナルの機能を検証することができた。一方で、本検証実験は、Pvrシグナル・JAK-STATシグナル共活性化実験のみによって得られたものである。当初計画していた、Pvrシグナル活性化・JAK-STATシグナル不活化実験については、十分な検証を行えていない。これは、JAK遺伝子に対する一過的なノックダウンの効果が不十分であることによる。そこで、遺伝子ノックダウン法ではなく、JAK-STATシグナル抑制因子であるSocs36Eを強制発現する方法により、本実験を再検証したい。
進捗状況に記載した通り、平成27年度の研究は当初の計画通り進めることができた。そのため、平成28年度計画についても、当初の計画と同様に進めていく。具体的には、“2”により得られた、“JAK-STATシグナルが細胞死許容シグナルである”という結果について更なる検証を行うために、以下の研究計画を推進する。1. JAK-STATシグナル下流標的遺伝子の探索申請者は、トランスクリプトーム解析により、加齢に伴い発現が上昇する遺伝子群を同定している。Pairedレベル低下時にはJAK-STATシグナルが上昇していることから、同定された遺伝子群にはJAK-STATシグナルの下流標的遺伝子が含まれていると予想される。これらを候補として、半定量RT-PCR法によりJAK-STATシグナルに応答する遺伝子の探索を行う。さらに、JAK-STATシグナルを活性化した遺伝的モザイクを作成し、同定された遺伝子のin situ hybridyzationを行い、発現上昇が細胞自律的かつ強い相関をもつ遺伝子絞り込む。2. JAK-STAT下流標的遺伝子とPvr誘導性細胞死との相関関係の検証同定されたJAK-STATシグナルの下流標的遺伝子の中から、Pvrシグナル誘導性の細胞死に影響をあたえる因子を探索する。遺伝的モザイクにおいて、Pvr シグナル活性化に加えて同定遺伝子の強制発現・ノックダウンを行う。Pvrシグナル単独活性化をコントロールとし、細胞死誘導の頻度への影響を調べる。細胞死誘導に対して、促進または抑圧効果を示した因子が、JAK-STAT下流においてPvr誘導性細胞死の許容に関与している因子といえる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Developmental Biology
巻: 410 ページ: 24-35
10.1016/j.ydbio.2015.12.017
Genetics
巻: 199 ページ: 1183-1199
10.1534/genetics.115.174698
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~e090001/