研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H01396
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中山 恒 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (10451923)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低酸素応答 / PHD3 / プロリン水酸化 |
研究実績の概要 |
まず、慢性期の低酸素環境で活性化される転写因子CREBの活性制御機構を明らかにするために、CREBをノックダウンした細胞を作製した。この細胞を用いた解析から、新たにCREBはERストレス刺激により活性化されることを見出した。また、がん細胞を長期的な低酸素環境で培養することにより、ERストレス経路とCREB経路が協調的に活性化されることが判明した。したがって、両者がクロストークしながらCREBの活性化状態を維持して、慢性的な低酸素応答に寄与していることが考えられた。この成果は論文として報告した。次に、これまでにプロテオミクス的手法を用いて網羅的に同定してきた、プロリン水酸化酵素PHD3と結合するタンパク質群の解析を進めた。このアプローチにより得られた核輸送因子AはPHD3と細胞内で結合することが確認された。また、質量分析のデータを精査することでAは細胞内で水酸化修飾を受ける可能性が示唆された。そこで、AとPHD3の相互作用を低酸素環境で検討したところ、両者の間の相互作用は変化しなかったものの、Aがさらに別な酵素Bと結合することが判明した。現在、PHD3-A、B間の相互作用がBの細胞内局在にどのように作用するのか、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性期の低酸素環境でCREBの活性を制御する分子機構として、CREB経路がERストレス経路とクロストークしながら、活性化状態を維持することを明らかにした。この成果を論文として発表した。また、プロリン水酸化酵素PHD3の新たな水酸化標的タンパク質の候補として、核輸送因子Aを同定した。さらに、PHD3はAに加えて、酵素Bとも結合して、これらの分子は複合体を形成することで、Bの細胞内局在を変化させることが示唆された。これらを達成したことで、本研究計画中の慢性期低酸素下での転写因子の活性制御機構の解析、PHD3とその結合タンパク質の相互作用の分子機序の解析、ならびに、その相互作用を介した細胞内局在変化の解析までを順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、核輸送因子AがPHD3により水酸化を受ける可能性を質量分析を用いて詳細に解析したい。もし実際に水酸化が起きていることが確認された場合には、その水酸化部位の変異体を作製して、PHD3, 酵素Bとの相互作用やAの機能に及ぼす影響を検証したい。さらに、今回新たに見出したPHD3-A-B間の相互作用について、どのような環境下で引き起こされるのかを低酸素培養の濃度や時間を変えながら明らかにしたい。この時に、酵素Bが水酸化修飾を受ける可能性についても検証する。最終的に、核輸送因子Aが引き起こす酵素Bの細胞内局在の変化が、Bの機能にどのような影響を与えるのかを明らかにして、低酸素応答におけるその生理的役割を明確にしたい。
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