これまでにプロテオミクス的手法を用いて網羅的に同定したプロリン水酸化酵素PHD3と結合するタンパク質群の解析を進めた。このアプローチにより得られた核輸送因子AはPHD3と細胞内で結合することが確認された。さらに、同じ質量分析のデータからPHD3は別な酵素Bとも相互作用することが判明したため、分子AとBの間での結合を検証したところ、両者の間にも結合が存在することが明らかになり、PHD3-A-Bの三者で複合体が形成されていることが示唆された。核輸送因子Aが酵素Bと結合することによりその細胞内局在を制御している可能性が考えられたことから、酵素Bの細胞内局在を細胞分画実験により検討したところ、通常は核内に存在する酵素Bが、この複合体が効率的に形成される低酸素環境では有意に減少することが明らかになった。さらに、PHD3と酵素Bの相互作用により、Bが水酸化修飾を受ける可能性を質量分析を用いて検証したところ、水酸化される可能性のある複数の部位の同定に成功した。また、これらの水酸化候補部位に変異を導入した変異体を作製し、解析を進めたところ、いくつかの変異体ではその安定性が著明に低下することが明らかになった。今後は、ここまでの研究成果をまとめるとともに、核輸送因子Aおよび酵素BがPHD3により水酸化を受けることを実証し、その部位を、質量分析を用いて精確に同定したい。また、この水酸化がどのような低酸素条件(酸素濃度、時間)によって変化するのかについても検証したい。最終的に、代表的な低酸素性がんのマウスモデルを用いて、これらの水酸化変異体の解析を実施することで、低酸素性の疾患の発症・発展におけるこれらの分子の生理的意義を明確にしたい。
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