公募研究
腫瘍組織には通常の組織とは異なり、細胞の増殖が速すぎるために血管新生が追い付かず、血管から離れた場所に低酸素領域が存在する。この低酸素領域は初期の腫瘍から存在し、酸素が少ないために活性酸素種が発生し難いため、放射線治療に対して抵抗性を有する。そのため、この低酸素領域が、腫瘍の悪性度や転移能を高める原因の一つと考えられている。そこで、まず、研究代表者は、2-ニトロイミダゾール(2-NI)に着目した。2-NI は、低酸素環境下で機能する放射線増感剤であり、低酸素環境下の細胞内において、一電子還元酵素による還元を受け、親水性が向上、あるいは細胞内物質と結合する。その結果、細胞膜逆透過が抑制され、腫瘍細胞内に蓄積すると考えられている。次に、診断方法として、研究代表者が開発した独創的「分子標的 NMR/MRI 法」に着目した。分子標的 MRI 法の基礎となる三重共鳴 NMR 法は、分子プローブの特定の 1H シグナル(1H‐13C‐15N 配列の 1H)のみを高選択的に観測する優れた手法である。すなわち本法を用いることにより、生体内の水や脂質由来の 1H によるバックグラウンドノイズは完全に消去され、13C、15N 核を有する分子プローブのみを高選択的に検出可能となる。そこで平成 27 年度は、以上のプローブ設計指針に基づき、2-NI と 13C/15N 二重ラベル化ホスホリルコリンとを、鎖長が異なるアルキル鎖を介して複合化した 13C/15N-NIPC プローブの合成に成功した。さらに、in vitro での機能評価により、アルキル鎖長が 6 である 13C/15N-NIPC 6 が低酸素環境下、最も高い放射線増感能を示すこと、および細胞夾雑物が多数存在する系においても三重共鳴NMRにより、13C/15N-NIPC 6 プローブのみを高選択的に検出可能であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本公募研究では、生体内の「酸素」環境をリアルタイムに画像化するため、「分子標的 MRI 法」に有効な3種類の新しい 13C/15N-ラベル化双極性ポリマープローブ(造影剤)の開発を目指している。その中で、平成 27 年度は、「生体内の低酸素領域に高集積し、同時に放射線増感剤としての機能を維持する 13C/15N-NIPC の開発」に成功した。さらに、感度向上のために、母骨格であるホスホリルコリンの原子移動ラジカル重合(ATRP)を行い、 13C/15N-PMPC/NIの合成と機能評価が必要であるが、第一の研究テーマである(1)生体内の低酸素領域に高集積し、同時に放射線増感剤としての機能を維持する 13C/15N-NIPC の開発については、順調に進展している。
生体内の「酸素」環境のリアルタイムでの画像化を実現する以下の革新的分子プローブ(1)~(3)を開発する。さらに「診断」と放射線等による「治療」とを同時に実現するセラノスティックプローブの開発へと展開し、本新学術領域研究「酸素生物学」が目指す「酸素の生物学的理解」に貢献する。(1)生体内の低酸素領域に高集積し、同時に放射線増感剤としての機能を維持する 13C/15N-NIPC の開発(2)抗酸化活性を“その場” 観測する13Cで二重ラベルした分子プローブの設計・合成と、分子標的 MRI 法による生体内での活性酸素種の可視化(3)レドックス活性を観る 13C/15N-ラベル化 MRI プローブを設計・合成する。合成した分子プローブが、溶液、組織、動物レベルで低酸素領域・抗酸化活性・レドックス活性を「分子標的 MRI 法」を用いて定量的に画像化する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
Bioorg. Med. Chem. Lett
巻: 25 ページ: 2675-2678
http://dx.doi.org/10.1016/j.bmcl.2015.04.072
Sensors
巻: 15 ページ: 31973-31986
10.3390/s15229900
Tetrahedron
巻: 71 ページ: 4438-4444
http://dx.doi.org/10.1016/j.tet.2015.04.050
J. Am. Chem. Soc.
巻: 137 ページ: 799-806
10.1021/ja510479v
http://www.probe.abe.kyoto-u.ac.jp/