公募研究
酸素応答は酸素を利用する生命システムにおいて最も重要な環境適応機構の一つである。これまで、脊椎動物における低酸素応答の分子機構はそのマスター転写因子であるHypoxia inducible factor (HIF-) を中心に研究が展開されてきた。その一方で、酸素応答がすべてHIF-の制御のみで説明できないことや、酸素分子が関わる生命現象の多様性から、酸素応答に関わる生命システムには未知の領域が多く残されていることが明らかになっており、より包括的な酸素応答機構の探索とその理解が重要な課題となっている。本研究課題では、申請者らが考案したタンパク質水酸化のシステマティクな同定法であるTarget Hydoxylome Scan法を構築し、酸素応答に重要な役割を担っているタンパク質水酸化の同定を試みる。さらに、これまでに開発しているペプチドの精密定量法を利用して、低酸素応答における水酸化の変化を経時的に計測する。これに加えて、酸素応答が代謝システムに与える影響をプロテオーム・メタボロームの二つの階層から定量的に計測し、得られたデータを用いて多変量解析やネットワーク解析を実施することで、酸素応答の全体像を浮き彫りにする。平成27年度は、水酸化ターゲットタンパク質の候補を情報生物学的手法により選択し、候補タンパク質cDNAセットを作製した。これらのcDNAセットに精製用タグを付加し、培養細胞に発現させ・各基質候補タンパク質を発現させる系を確立した(Target Hydroxylome Scan法)。さらに、酸素濃度変化に伴う細胞状態の変化を、ターゲットプロテオミクスによる全代謝酵素の絶対定量や、主要代謝物のメタボローム解析を実施した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は水酸化を受けるタンパク質候補を水酸化酵素の認識部位を指標にバイオインフォマティクスの手法で抽出し、これらのcDNAを含む発現ベクターを構築した。約200遺伝子をすでに取得しており、順次ヒト培養細胞に発現させ、当該遺伝子産物の精製を進めている。精製されたものから順次質量分析計による測定を実施しており、ほぼ予定通りに進んでいる。また、ヒト培養細胞を低酸素や低栄養を組み合わせた条件で培養し、酸素環境変化で生じる代謝システムの変化を精密に定量することに成功している。このように概ね当初の計画どおり進んでおり、大きな問題は生じていない。
平成28年度は、前年度に引き続き、水酸化タンパク質の同定を進める。さらに、得られた水酸化候補タンパク質に関して、水酸化標的部位を対象としたターゲット定量プロテオミクスメソッドを構築し、酸素濃度依存的にこれらの水酸化が応答するかを検証する。また、各種水酸化酵素をbaitにした相互作用解析によって新規基質の同定も試みる。得られた同定情報や定量情報を統合し、水酸化基質候補データベースを作成し、蓄積した情報を元に、統計的手法、多変量解析、さらにはネットワーク解析によって、細胞システムの酸素応答機構の全体像解明や重要因子の絞り込みを実施する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
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