研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H01408
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
今泉 祐治 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (60117794)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薬理学 / 薬学 / 生理学 / ミトコンドリア / 低酸素ストレス / イオンチャネル / カルシウムシグナリング / イメージング |
研究実績の概要 |
①低酸素培養(酸素濃度4~5%、72時間)のウシ脳血管内皮細胞株(t-BBEC117)において、Kir2.1のタンパク及び機能発現が増加していることを明らかにした。更に、低酸素培養により、ストア作動性Ca2+流入(SOCE)が増強すること、この増強の一部が100μM Ba2+によって減少することを明らかにした。一方、SOCEを起こす分子実体として知られるOraiやSTIM、TRPチャネルのmRNA・タンパクの発現は、低酸素によって影響を受けなかった。低酸素下で培養されたt-BBEC117は通常酸素下の場合と比べて有意に細胞増殖が促進した。この作用は100μM Ba2+によるKir2.1の阻害により減少した。以上より、脳血管内皮細胞の低酸素培養は、Kir2.1の発現・機能上昇を引き起こし、細胞膜の過分極によってSOCEを増大させている可能性が示唆された。 ②血管平滑筋細胞株であるA10を用いて、ミトフュージン2(Mfn2)の機能を調べた。Fluo-4/AMとRhod-2/AMを用いて、細胞質内Ca2+濃度とミトコンドリア内Ca2+濃度を共焦点レーザー顕微鏡で同時に測定した。siRNAによりMfn2を選択的にノックダウンしたところ、100 nM バソプレシンによっておこる細胞質内Ca2+濃度上昇の持続時間の延長とミトコンドリアへのCa2+取り込みの減少が観察された。この結果は細胞内のCa2+緩衝能に対してMfn2が重要な役割を担っていることを示唆している。また、種々のストレスによるMfn2発現変化について調べた。A10に対してH2O2で刺激を行うと、細胞死が起こる濃度域でMfn2の発現上昇が観察された。一方、昇圧ホルモンや無血清培養などの弱いストレス下ではMfn2の発現上昇が見られた。A10の細胞増殖に対するMfn2の影響を調べたところ、Mfn2のノックダウンにより細胞増殖が減弱したことから、Mfn2は平滑筋の増殖に対して正の働きを持つことが判明した。これらの結果は細胞ストレス下での平滑筋リモデリングに対してMfn2が寄与する可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①低酸素下培養(酸素濃度4~5%、72時間)という生体内で起こりうるマイルドなストレス刺激によって、脳血管内皮細胞モデルにおいてKir2.1発現が増大し、細胞増殖に対して正に寄与するということを世界で初めて明らかにした。この研究成果は国際誌に投稿中である。 ②これまでに、Mfn2がミトコンドリアと小胞体の間の物理的・機能的な連関に対して、正に働くという報告と、負に働くという報告の2つがある。我々のsiRNAを用いた検討では前者を支持する結果を得た。また、種々の細胞ストレスによってMfn2の発現が下での平滑筋リモデリングに対してMfn2が寄与する可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
①低酸素培養によってKir2.1の発現が増大する分子メカニズムを解明する。これまでの検討から、mRNAレベルではKir2.1の発現量は変化しないものの、タンパク質量が増大することを明らかにしている。Kir2.1の分解経路として、リソソーム分解系が知られている。従って、低酸素培養下におけるリソソーム分解系に関わる分子群の発現・活性変化を明らかにする。また、低酸素ストレスによってダイナミン2の発現が減少することが報告されている。そこで、低酸素培養されたt-BBEC117細胞におけるダイナミン2の発現変化とKir2.1の細胞内への取り込みへの影響について明らかにする。 ②Mfn2の細胞内Ca2+緩衝能に対する影響をより詳細に明らかにする。これまでは細胞質内とミトコンドリア内のCa2+濃度の2色の同時測定であったが、更に小胞体内のCa2+濃度も同時に測定し、アゴニスト刺激によって誘発されるCa2+シグナリングの各オルガネラ間の共役をリアルタイムで可視化する。この共役に対するMfn2の働きをsiRNAによるノックダウン実験で明らかにする。 ③低酸素刺激時および平滑筋の分化・脱分化時のMfnの発現変化を明らかにし、平滑筋リモデリングに対するMfnの役割を明らかにする。
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