研究実績の概要 |
中枢神経系は認知・思考・記憶・感情といった高次機能を実現しているが、その作動原理は未だ謎のままである。高次機能を実現する素子・構成単位として、神経細胞を想定することは妥当であろう。しかし神経細胞一つ当たりの情報処理速度は高々1KHz程度が限界であり、神経細胞が構成するネットワークにこそ、高次機能を生み出す原理があると考えられる。 平成28年度は以下の課題に取り組んだ。 (1) 細胞種特異的かつ高発現型ウイルスベクターの開発:レンチウイルスベクターにTet-Offシステムを利用することで、神経細胞特異的に、目的遺伝子の発現量を数十倍程度まで増幅することに成功し、またin vivoウイルス二重感染法の基礎を築いた(Hioki et al., 2007, 2009)。本研究課題では、アデノ随伴ウイルス(AAV)で各種配列の最適化を行い、新たなレポーター遺伝子発現増幅AAVベクター(AAV SynTetOff)を開発した。目的遺伝子の発現量を40倍程度まで増幅することに成功している(Sohn et al., 2017)。新規蛍光プローブや各種移行シグナルの検討を進めているところである。 (2) 回路シフトの可視化:連合学習による神経活動遷移(回路シフト)を可視化する技術開発に取り組んだ。神経活動依存的なプロモーター下で、新規蛍光プローブを発現するAAVを4種作製した。in vitroで検討を進めたが、神経活動遷移を効率的に可視化するためには、更なる改良が必要であり、引き続き検討を進めている。 (3) ハイスループット形態解析法:脳透明化技術を有効に利用すれば、三次元情報が容易に取得できるようになる。時間や労力の大幅な削減(量的変化)が、従来見えなかったものを見るという質的変化をもたらすと期待される。透明化ステップの簡略化に成功している。観察・解析システムの最適化に努めたい。
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