公募研究
本研究では、脊髄損傷後の機能回復と神経回路再編のメカニズムを明らかにするため、解剖学的(皮質脊髄路の直接路が存在する)および生理学的(手指の巧緻性が発達している)にヒトに近縁のマカクザルを用いて、脊髄損傷後に起こる皮質脊髄路の代償性変化を同定し、運動機能回復との相関を解析することを目的とする。平成27年度は、研究実施計画に記載した(1)サル脊髄損傷モデルの作製、(2)脊髄損傷後の運動機能の解析、(3)脊髄における代償性神経回路の形成様式の解析、(4)代償性神経回路の機能回復への寄与の検証、のすべての研究計画を実施した。主な研究実績は以下のとおりである。(1)サル脊髄損傷モデルの作製:マカクザルを用いて、頸髄下部(C7/8レベル)において片側2/3(内側部を除く)を傷害した脊髄損傷モデルを作製した。(2)脊髄損傷後の運動機能の解析:脊髄損傷後、自然経過に伴う運動機能の回復過程を、手指の巧緻運動能力を定量的に評価できるBrinkman board testとreaching/grasping taskを用いて解析した。(3)脊髄における代償性神経回路の形成様式の解析:運動機能の回復がみられた後、脊髄において代償性の皮質脊髄路がどのように再編しているかを明らかにするため、皮質脊髄路線維の脊髄内再分布様式を順行性神経トレーシングにより解析した。その結果、皮質脊髄路線維のうち運動ニューロンが分布する9層に分布する割合が、対照群に比べて顕著に増大していることがわかった。(4)代償性神経回路の機能回復への寄与の検証:脊髄損傷側と反対側の一次運動野の手指領域を皮質内微小刺激によって刺激し、運動が惹起されることを確認した後、同定した領域にmuscimolを注入し、運動機能の解析をおこなった。その結果、muscimol注入により手指運動が麻痺することが確認された。
2: おおむね順調に進展している
理由:平成27年度の研究実施計画に記載した(1)サル脊髄損傷モデルの作製、(2)脊髄損傷後の運動機能の解析、(3)脊髄における代償性神経回路の形成様式の解析、(4)代償性神経回路の機能回復への寄与の検証、のすべての研究計画を実施し、所定の研究実績を上げており、全体として研究が順調に進展していると考えられるため。
研究計画は当初の予定どおり順調に進展しているので、平成28年度は「大脳皮質における代償性神経回路の形成様式の解析」に関する研究計画を進める。具体的には、逆行性ニューロンラベル法を駆使して、代償性の皮質脊髄路を構築する大脳皮質前頭葉運動関連領野の起始細胞の分布パターンを解析する。当該研究計画では、通常の逆行性トレーサーと逆行性越シナプス的感染能を有する狂犬病ウイルスを組み合わせた逆行性ニューロンラベルにより、特に運動関連領野における皮質脊髄路の起始細胞の再構築パターンや直接路 vs 間接路の再形成パターンを検討する。具体的には、運動機能の回復がみられた後、実験3によって同定された神経線維終末の分布領域に蛍光色素などの逆行性トレーサーや狂犬病ウイルスを注入する。逆行性トレーサーは注入部位に直接投射している一次ニューロンをラベルすることができる。他方、狂犬病ウイルスは越シナプス的感染能を有しているため、一次ニューロンに加えて、一次ニューロンに投射している二次ニューロン、更には二次ニューロンに投射している三次ニューロンというように、注入後の生存期間を変化させることにより、多シナプス性神経ネットワークを機能解剖学的に可視化することができる。このようにして、通常の逆行性トレーサーでは困難であった皮質脊髄路に関与する多シナプス性神経ネットワークの全容を解明することができる。予備実験により、健常なサルの脊髄に狂犬病ウイルスを注入し、一次運動野を含む複数の運動関連領野において錐体細胞がラベルすることをすでに確認している。当該研究計画では、皮質脊髄路の再編に関与する運動関連領野の起始細胞の分布様式に加えて、運動関連領野から直接脊髄運動ニューロンに投射する直接路と脊髄介在ニューロンなどを介する間接路が皮質脊髄路の再編によりどのように再形成されるかを明らかにする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 10件、 招待講演 4件) 図書 (3件) 備考 (1件)
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