公募研究
これまでに、視床皮質投射系において軸索分岐が神経活動依存的に制御されるメカニズムとして、皮質細胞の神経活動に依存して分泌性因子Netrin-4や神経栄養因子BDNFがの発現が増大し、軸索分岐に促進的に作用することを報告した(Granseth et al., 2013; Hayano et al., 2014)。本研究では、このような促進的な要因に加えて、抑制的因子の存在することを仮説として掲げ、さらなる分子探索を行った。その結果、神経活動に依存してその発現を減少させる因子としてkit ligand (KL, stem cell factorとも呼ばれる)を同定した。KLのmRNAは発達期大脳皮質、特に皮質上層で強く発現し、発達するにつれて発現が減少することが分かった。さらに、暗条件で飼育した視覚野、TTX存在下での大脳切片培養において、その発現を増大させることも示された。次に、その作用を調べるために視床皮質共培養系においてKLタンパク質を添加したところ、視床軸索の分岐形成は顕著に抑制された。また、KLの受容体であるc-kitの常時活性化体を視床細胞に過剰発現させた場合にも、視床軸索の分岐は著しく減少した。このように、KLは視床軸索の分岐形成に対して抑制的に作用することが示唆された。KLの発現が生後発達期に減少することを考え合わせると、生後の過程で神経活動の活発化によってKLの発現が抑制されることによって、Netrin-4やBDNFと共に軸索分岐に対して促進的に作用することが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
神経活動依存的に軸索分岐が抑制されるメカニズムがあること、さらにその分子機構としてkit ligand-ckit受容体のシグナル伝達系が関わっていることが示唆され、神経活動依存的な回路シフトの制御機構が明らかにされつつある。
本年度示したKLの軸索分岐抑制作用を別の視点の実験からも明らかにする。そのために、受容体c-kitを抑制する化合物を添加して培養下での軸索分岐を調べる。また、KLあるいはc-kitの欠損動物における視床軸索の分岐を調べ、その働きをin vivoで明らかにする。これらの実験に加えて、ルシフェラーゼによるKLの神経活動依存的な転写調節機構を調べる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Developmental Neurobiology
巻: 76 ページ: 323-336
10.1002/dneu.22317
Scientific Report
巻: 5 ページ: 10662
10.1038/srep10662
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/neurobiol/