研究領域 | 行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構 |
研究課題/領域番号 |
15H01437
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 一郎 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (60181351)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 両眼立体視 / 大きさの恒常性 / 両眼対応問題 / 奥行き知覚 / 3Dビジョン / 相関計算 / 霊長類 / 視覚 |
研究実績の概要 |
左右の眼は異なる位置から世界を見ており、左右網膜における外界投影像には小さな位置ずれ(両眼視差)が生じる。脳はこの両眼視差を利用して両眼立体視を実現する。申請者は、自身の心理物理学的研究に基づき、「両眼立体視において相関計算と対応計算という2つの計算アルゴリズムが働き、奥行き知覚は両者の出力の重み付け加算によって決まり、それぞれの相対的貢献度は視覚刺激の条件により適応的に制御される」という仮説をこれまで提唱してきた。本研究では、この適応制御の神経機構の実体解明を目指し、サルにおける生理学実験、2光子イメージング、行動実験、およびヒトにおける心理学実験、核磁気共鳴撮影(fMRI)を通して、「背側(頭頂葉)経路と腹側(側頭葉)経路の中段であるMT野とV4野が相関計算と対応計算のそれぞれに関与し、これら領域の出力の統合が奥行き知覚を決定する。両経路の出力の重み付けが制御されることで、視覚状況に適応した両眼立体視が実現される」という仮説を検証する。また、両眼視差と他の視覚情報との相互作用の解明を目指す。 本年度は、相関計算と対応計算の重み付け加算の過程の定式化とモデル計算を行い、この仮説がヒトの奥行き知覚パフォーマンスを定量的に予測すること(Phil Trans B, in press)、側頭葉視覚経路のV4野の細胞の集団活動が両眼対応問題の解を与え、対応計算シグナルとなっていること(J Neurophysiol 2015)、V4野が網膜像の大きさと両眼視差の情報を統合し、「大きさの恒常性」を担うシグナルを伝えていること(J Neurosci, 2015)を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画申請時の当初目標として、(1)V4野とMT野で行われる立体視に関する計算アルゴリズムの特定と両者間の機能シフトの解明、(2)ヒトの視覚野における相関計算、対応計算を遂行する部位の同定、(3)V4野、MT野への両眼視差情報入力経路の解明、(4)V2, V3, V3Aの両眼対応点問題への関与の検討、(5)サルにおける逆転奥行き知覚の有無の検証の5点を目標としている。この内、(1)のV4野の検討は終了し論文掲載に至った。MT野の検討を現在行っている。(2)、(3)、(5)の研究は現在、順調に遂行している。(3)の課題は、技術的な困難さに直面しており、打開策を模索中である。これらの課題に加えて、研究開始当初には計画に含めていなかった両眼視差と大きさ情報との相互作用の解明に大きな進展があり、V4細胞が大きさの恒常性を支える信号を伝えていることを明らかにした。以上、総合的に考えて、研究はおおむね順調に進展しているる。
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今後の研究の推進方策 |
上記進捗状況の項に記した5つの課題のうち、(1)のMT野の検討、(2)ヒトの視覚野における相関計算、対応計算の遂行部位の同定、(4)V2, V3, V3Aの両眼対応計算への関与の検討、(5)サルにおける逆転奥行きの有無の検討の4点の完成をまず第一目標とする。(3)の課題で直面している技術的問題が解決できない場合は、研究リソースを、(2)のヒトの視覚野における相関計算、両眼計算の解明にあてる。現在、拡散強調MRI法を用いて、ヒトの主要な視覚経路(白質経路)と両眼視機能との関係を調べているが、興味深い予備結果が得られており、このプロジェクトを強く推進していく予定である。
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