公募研究
神経回路機能を理解するためには、それをサブ回路に分離する技術が鍵となる。本研究では、申請者が最近開発した新規技術「神経細胞の誕生日タグづけシステム」を用いて、以下の2つの取り組みを行なう。これは、トランスジェニックマウス系統を用いて、神経細胞の誕生日依存的に遺伝子組換えを誘導するシステムである。「誕生日」という神経細胞の新たな分類を可能にし、その分類に基づいた神経細胞の機能操作ができる。1)「神経細胞の誕生日タグづけシステム」は汎用性が高い技術である。多くの神経系において「誕生日」は神経細胞の有用な分類になるので、様々な脳領域の研究者がこの技術を研究に活用できると期待される。まだ未発表のこの新規技術を領域会議等で紹介することで、領域内共同研究を推進し、新たな研究の方向性を提案する。2)「神経細胞の誕生日タグづけシステム」を使って、二次嗅覚神経系をサブ回路に分解し機能を解析する。二次嗅覚神経の投射は長らくランダムだと言われ、特定のサブ回路の存在については懐疑的な意見が強かった。申請者は上記新規技術を用いることで、誕生時期の違う嗅球の投射神経細胞が、各々分離可能なサブ回路を形成することを見いだしている。本研究では、特に遅生まれの房飾細胞に注目して神経活動操作を行ない、これが作るサブ回路の機能的意義を明らかにすると共に、二次嗅覚並行回路の機能的な使い分けやシフトの可能性を探る。
2: おおむね順調に進展している
1)既に領域内で2件の要請を受けて誕生日タグづけマウス系統を提供した。今後の研究の進展に期待している。2)遅生まれの房飾細胞は、全ての軸索を非常に限られた領域に収束させており、他の嗅球神経細胞とは独立の神経回路を作っていることがわかった。現在これらの神経細胞特異的に神経活動制御遺伝子を発現させて、嗅覚行動に対する影響を検討している。
1)多くの研究者から誕生日タグづけシステムに対する問い合わせを受けている。各誕生日タグづけ系統の組み換え部位を紹介する画像データベースを作成して、研究者間で情報共有できるようにする。2)誕生日タグづけマウス系統を、ジフテリア毒素、テタヌス毒素、合成薬剤で活性化される受容体(DREADD)などの神経活動操作系統と交配する。妊娠15.5日目にタモキシフェンを腹腔内注射して、誕生日依存的組換えを誘導する。この操作により、遅生まれの房飾細胞特異的にレポーター遺伝子発現を誘導できることは、既に確認済みである。得られたマウス個体に、匂い報酬連合学習、匂い馴化試験、匂い嫌悪学習などを課して、嗅覚機能の様々な要素を検定する。房飾細胞は匂いの速い情報処理への関与が示唆されているので、より素早い嗅覚反応を検定するために、匂い提示時間の制御が可能な行動解析装置を用いた解析も行う。トレーニング時、学習形成後、記憶想起時、など様々な局面で、可逆的に神経活動の操作を行うことで、嗅覚並行回路の適応的シフトの実体に迫る。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Cerebral Cortex
巻: 25 ページ: 4111-4125
doi: 10.1093/cercor/bhu129
Proc Natl Acad Sci USA
巻: 112 ページ: E4985-4994
doi: 10.1073/pnas.1420701112