1.本研究課題では、線虫のアミノ酸代謝酵素をコードする遺伝子の発現が食餌に応答してmRNA前駆体からノンコーディングmRNAを産生する転写後プロセシングにより制御される現象の分子機構として作動エレメントと作動装置の実体を解明することを目指している。2種類の細菌をそれぞれ餌として飼育した線虫のmRNAの大規模シーケンス解析を行い比較したところ、細菌の種類によるノンコーディングmRNAの発現量の違いは予備実験ほど顕著ではなかった。そこで、このノンコーディングmRNAの発現量が変動する条件をよく検討した結果、3時間の摂食と絶食によって可逆的に変動することが明らかとなった。また、この酵素のノンコーディングmRNAの発現は自身のコピー数によっても変動することから、代謝産物による間接的な選択的スプライシングの制御機構の存在が示唆された。 現在は、作動装置変異体のスクリーニングを可能にするため、ノンコーディングmRNAの発現量を可視化する蛍光レポーターの作製を進めている。また、ノンコーディングmRNAの発現を変動させる大腸菌の成分の特定を試みており、これまでに、熱で失活すること、DNA分解酵素やRNA分解酵素に対しては安定であることを見出している。 2.線虫のリボソームタンパク質をコードする遺伝子のうち8つがノンコーディングmRNAを産生する選択的スプライシングを受けることで発現量の恒常性が維持されていることを見出し、そのうちL10aタンパク質がL10AREと命名した作動エレメントに直接結合することで選択的スプライシングを自己制御することを報告した。 3.線虫のRNA結合タンパク質PTB-1が哺乳類の相同遺伝子と同様に自身のmRNA前駆体の選択的スプライシングを制御してノンコーディングmRNAを産生させることで発現量を負に自己制御していることを報告した。
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