公募研究
進化的に起源が不明な形成体(オーガナーザー)は、原始的な多細胞生物である細胞性粘菌の発生過程においてもみられ、転写因子STATa が形成体の機能に関わっている。細胞性粘菌長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)であるdutA RNAがSTATaの活性化(SH2ドメインC末端側のチロシン残基のリン酸化のこと)を調節し、分化の最終段階である子実体形成を抑えることから、dutAは形成体の機能を調節して未分化状態の維持に関与すると考えられている。本研究においては、dutA RNAがどのような作動装置として機能するのか、ハイブリダイゼーションによらない検出法でdutAの局在変化や消失などRNAそのものの動態を追うことでlncRNAによる未分化維持メカニズムを提唱することを目的とした。そのために、目的RNA の3′末端にMS2リピート配列を導入した融合RNAを発現させ、MS2-GFP融合タンパク質も発現させることで、ハイブリダイゼーションによらない汎用的なRNA検出法の確立を目指した。手法の確立により、dutA遺伝子のリアルタイムな転写のオンオフ及び局在変化や消失などRNAそのものの動態を追うことを可能にする。これにより、lncRNAが形成体においてどのように機能して制御するか、また、dutA RNA断片がSTATa遺伝子部分破壊株をサプレッションする能力を利用してdutA RNAの作動領域をマッピングしエレメントを同定することで作用機序を解明する。また、RNAが複合体として機能する可能性も考慮し、MS2リピートがタグとして付加されたdutA RNAを利用したRNA沈降実験によって、dutA RNA結合タンパク質の同定を試みる。同時にdutA RNAが作用する転写因子STATaをリン酸化するTKLキナーゼとの結合実験も試みる。
2: おおむね順調に進展している
内在のdutA RNAの細胞内局在についてRNA FISHの手法で検出を試みた。総括班主催の講習会で技術支援を受け、通常のRNAプローブを用いたRNA FISHを行い超高解像度顕微鏡で細胞質での存在を確認できた。次に、dutA遺伝子の転写オンオフとdutA RNA そのものの動態をライブイメージで観察する手法の開発を試みた。まず必要なノックインコンストラクトを作製した。dutA RNAの3′末端(転写終結点)のすぐ上流にMS2のリピート配列を導入した融合RNA発現するようなノックインコンストラクトを用いて、dutA 遺伝子座にノックインされた株が複数得られた。これらを用いて増殖期の細胞を観察したところ、核(RFP-ヒストンH2BまたはDAPIでマーク)内にスポットとして転写の様子が観察された。dutA RNA動態追跡ため、この株を発生させて局在を観察したところ、in situハイブリダイゼーションの結果に類似し、子実体形成期にオーガナイザー領域からGFPシグナルが消失した。よって、得られた株では転写のオンオフとRNA動態の両方を同時に観察できることがわかった。この株は薬剤耐性遺伝子を除去してあるが、除去前の株を発生させてRNA動態観察したところ、同様なシグナルの消失が見られず、RNAの3′末端領域配列が効率的な分解に重要な働きを担っていると示唆された。また、dutA RNA の作動エレメント同定のため、様々な欠損変異dutA RNA発現コンストラクトの作製を行った。完成したコンストラクトをSTATa遺伝子部分破壊株と野生株に形質転換をし、目的株を選抜しているところである。27年度ではdutA RNA結合タンパク質に関する生化学的な解析は殆ど出来なかった。唯一、5′末端にタグをつけたdutA RNA発現コンストラクトを作製した。また、ノックイン株が得られたので、MS2結合配列のリピート配列をタグとして用いることも可能になった。
目的のノックイン株が予定より早く得られたので、今年度はこれを用いて詳細なイメージング解析を開始している。多細胞期の各発生段階において転写活性がスポットとして観察されるかを調べて強度を定量する。次に、dutA RNAの消失が分化の最終決定にどう連動しているのか、RNAの経時的動態を細胞種ごとにおける転写活性と分解活性の相対比を定量して追跡する。ノックイン株では薬剤耐性遺伝子カセットは除いてあるが、24個のMS2 のヘアピンループ配列が存在している。内在のdutA RNAがどのような振る舞いをするのかをRNA FISHによって詳細に観察するとともに、内在のdutA RNA の動態により近づけるためにMS2配列の繰り返し数を減じたノックイン株の作製を試みる。dutA RNA の作動エレメント同定のために、初年度は様々な欠損変異コンストラクトの作製を行った。引き続き、未作製コンストラクトの作製を行ない、細胞に形質転換してSTATa部分破壊株でのサプレッサー活性と野生株での子実体形成抑制活性を指標にdutA RNA 作動エレメントの同定を行う。得られたノックイン株はMS2リピートをタグとして利用可能で、MS2リピートに対するアフィニィティーカラムを作製することで、dutA RNA結合タンパク質が存在するかの実験を行う。もし、対照実験との間でタンパク質種の違いが検出されればアミノ酸配列の決定を試みる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Development Growth & Differentiation
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/dgd.12285
SpringerPlus
巻: 4 ページ: 190
10.1186/s40064-015-0964-0