研究領域 | ノンコーディングRNAネオタクソノミ |
研究課題/領域番号 |
15H01478
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研究機関 | 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 |
研究代表者 |
河岡 慎平 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 佐藤匠徳特別研究所, 主任研究員 (70740009)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エンハンサー / エンハンサーRNA |
研究実績の概要 |
エンハンサーは遺伝子の時空間的発現を制御する非コードDNA領域の一つである。標的遺伝子から遠く離れた遠位エンハンサーの生理機能解析には複数の技術的困難が伴い、適切な方法で生理機能が解明されたエンハンサーは、哺乳類ゲノムの場合総数40万から100万とも言われるエンハンサーのうちごく一部に過ぎない。エンハンサーRNAはエンハンサーから転写される非コードRNAであり、その生理機能もまた謎に包まれている。本研究では、生理機能が明らかとなっているエンハンサーをモデルとしてエンハンサーRNAの機能を解明する。同時に、網羅的な方法でエンハンサーRNAを特徴付け、その機能に関する示唆を得る。
本年度は、T細胞性急性リンパ性白血病細胞であるCEMとコルチコイド系薬剤であるデキサメタゾンを用いた実験を行った。まず、デキサメタゾン依存性の遺伝子発現変化と、それに連動するエンハンサーRNAを同定した。次に、CRIPSR/Cas9を用いて、デキサメタゾン依存性の遺伝子発現制御に重要なエンハンサーを同定した。さらに、本エンハンサーにマップされ、デキサメタゾンにより誘導されるエンハンサーRNAを同定した。また、上記の結果を受けて、上述のエンハンサーRNAを含む領域のノックアウト細胞株を複数作出した。上述のエンハンサーRNAはデキサメタゾン依存性の遺伝子発現変動に重要ではないことが判明しつつある。
本研究は、次世代シークエンス、バイオイフォマティクス、そしてCRISPR/Cas9を用いたノックアウトによって、エンハンサーRNAがコードされる領域が全く重要でない場合があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ゲノムワイドなエンハンサーRNAの解析と、生理機能がはっきりしているエンハンサーにおけるローカルなエンハンサーRNAの解析の両方を通して、エンハンサーRNAの機能を明らかにすることを目指している。本年度は、その両方の解析が順調に進んだ。昨今、エンハンサーRNAの機能に関して、いわゆる相関解析の結果から魅力的な仮説が多く提示されている。一方で、エンハンサーRNA領域を完全にノックアウトし、その機能を考察したような例はまだない。本研究はこれまでのエンハンサーRNA研究に一石を投じるものであるので、上記のように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.エンハンサーRNAのバイオインフォマティクス解析 (昨年度からの継続) 前年度の研究により、薬剤誘導性の遺伝子発現変動と、近傍に存在するエンハンサー領域から転写されるエンハンサーRNAの相関解析を行った。その結果、標的遺伝子の発現とエンハンサーRNAの発現が相関する領域とそうではない領域があることが明らかとなった。本解析においては、「遠位エンハンサーの標的遺伝子」を確実な方法でアサインする方法がないことが問題である。異なる薬剤や外部刺激で同様の実験を行った既報研究との差異も認められたため、詳細な解析を行うことで、新たな知見が得られる可能性がある。平成28年度は、前述の問題を意識しながら上記解析をさらに進めることで、薬剤誘導性の遺伝子発現変動におけるエンハンサーRNAの動態解析を進捗させる。
2.エンハンサーRNA領域のノックアウトの作成と解析 前年度の研究により、エンハンサーRNAを含む領域をノックアウトした細胞を複数作出した。本年度は、必要に応じてさらにノックアウト細胞を作出しつつ、前年度に作出したノックアウト細胞の性状解析を行う。具体的には、薬剤誘導性の遺伝子発現変動に対してエンハンサーRNA領域のノックアウトが与える影響を調査する。状況に応じて、単一のエンハンサーRNAのノックアウトだけでなく、複数のエンハンサーRNAを同時に欠失したセルライン、エンハンサーRNAを含むエンハンサー領域全体のノックアウトを組み合わせる。さらに、1-2に合わせて、エンハンサーRNAを含むエンハンサー領域を欠失させたマウスの性状解析を行うことにより、エンハンサー全体ならびにエンハンサーRNAを含む領域の動物における機能も解明する。以上より、細胞レベル、個体レベルでの、エンハンサーならびにエンハンサーRNAの存在意義を明らかにする。
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