エンハンサーは、標的である遺伝子がいつ・どこで・どのくらい発現するかを決める重要な非コードゲノム領域である。エンハンサーRNAはエンハンサーから発現する非コードRNAである。エンハンサーRNAの機能的重要性に関しては、分野内でも意見が分かれており、エンハンサー機能に必須である、という説から、エンハンサーとプロモーターが相互作用する際に転写される副産物にすぎない、という説まで、様々である。本研究では、急性リンパ性白血病の細胞株ならびにマウスを用いて、1.エンハンサーRNAの大規模配列決定ならびにバイオインフォマティクス解析と、2.エンハンサー領域全体ならびにエンハンサーRNA該当領域のノックアウト作成に基づくエンハンサーゲノム領域の機能評価を行った。
1.では、急性リンパ性白血病細胞を薬剤処理した際に観察されるゲノムワイドな遺伝子発現変化と、エンハンサーRNAの発現量変動に相関があるかどうかを調べた。その結果、エンハンサーによっては、エンハンサーRNAと標的遺伝子発現の間に正の相関が認められたが、ゲノムワイドに見ると相関の度合いは弱いことが判明した。
2.では、モデルとして取り扱った細胞死を制御する遺伝子のエンハンサーに関して、重点的なノックアウト解析を行った。エンハンサー領域全体をノックアウトすると当該細胞死遺伝子の発現制御に異常をきたすことから、エンハンサー領域全体の重要性は担保された。しかしながら、エンハンサーRNAの個別のノックアウトでは、顕著な表現型は観察されなかった。本研究は、エンハンサーRNAの機能的重要性に重要な示唆を与えるものである。
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