公募研究
骨髄異形成症候群(MDS)は多様な病態を含む不均一な疾患群だが、主に造血不全が問題となる病態である低risk MDSについては、MDS細胞の増殖能の亢進はあまり見られないにもかかわらず、正常造血幹細胞が著しく減少して正常造血が抑制されているが、その機序はこれまでのモデルだけでは十分に説明できず、MDS細胞との相互作用による正常造血幹細胞の抑制などの未知の機序の存在が示唆される。我々は一般的な骨髄異形成症候群(MDS)のモデルであるNUP98-HOXD13(NHD13)トランスジェニックマウスから採取した造血細胞を正常造血細胞と混合し、致死量の放射線を照射したレシピエントマウスに移植してキメラマウスを作製した。白血球表面のCD45多型を利用したLy5.1/5.2システムを用いて、MDS発症過程における正常造血細胞の分化、増殖を解析した。生着後MDS発症前の段階において、正常造血細胞はNHD13細胞に対して高いキメリズムを示したが、正常造血細胞同士を同様に移植したコントロール群と比較し正常造血細胞の成熟顆粒球への分化が阻害されることを明らかにした。またIn vitroの系において、NHD13をレトロウイルスを用いてマウス造血細胞に感染させ不死化した細胞を、骨髄造血ニッチを模したOP9細胞上で正常造血細胞と共培養したところ、キメラマウスの系と同様に正常造血細胞の成熟顆粒球への分化が抑制された。これらの結果より、MDS細胞による正常造血細胞の分化抑制が低リスクMDSにおける造血抑制に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
低リスクMDSにおける正常細胞の造血抑制の機序として、顆粒球系への分化抑制が関与している可能性があることを明らかにした。またNHD13トランスジェニックマウスと正常造血マウスのキメラマウスを作製し、MDS発症過程における造血抑制を経時的に解析する基盤が整った。
MDS細胞による正常造血細胞の分化抑制が液性因子を介して生じるか、細胞同士の直接接触により生じるかを検証するため、In vitroの系においてTranswellを用いてNHD細胞と正常造血細胞の直接接触を防いだ状態で共培養し、正常造血の顆粒球への分化を解析する。また、正常造血幹細胞にCRISPR-Cas9レンチウイルスライブラリ(Mouse Gecko v2 library)を感染させて同様にキメラマウスを作製、MDSを発症させ、MDS個体とMDS非発症個体の正常造血幹細胞を回収し、次世代シークエンサーでバーコード配列を解読する。正常造血幹細胞でノックアウトすることにより、MDS細胞による分化抑制を受けにくくなる遺伝子候補を検索する。実際にMDS細胞による抑制を受けにくくなるかをIn vitroおよびIn vivoの系で検証する。さらに遺伝学的・生化学的解析によりその顆粒のシグナルを明らかにするとともに、当該分子の作用をブロックすることで、正常造血の分化抑制が解除されるかどうか検証する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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