公募研究
本研究は癌幹細胞の細胞競合作用の分子的基盤解析とその臨床応用への展開という二つの視点を特徴とする。まずFACSソーティングによって単離した蛍光可視化癌幹細胞と、非対称性分裂によって生まれた非癌幹細胞に対して遺伝子プロファイリングを行なった結果、癌幹細胞に特異的に高発現する遺伝子DCLK1を同定した。癌幹細胞は生体内転移に対して高い優位性を認めるが、DCLK1ノックダウンによって転移巣は完全に喪失することが明らかとなった。実際の臨床検体における解析でも、転移巣におけるDCLK1高発現を検出した。さらにクロマチン免疫沈降法によるDCLK1プロモーター解析の結果、癌幹細胞では活性化マークH3K4me3が優位であるが、非癌幹細胞ではH3K4me3に加えて抑制マークH3K9me3およびH3K27me3も検出された。すなわち癌幹細胞ではopenクロマチン状態、非癌幹細胞ではbivalentクロマチン状態にあり、エピゲノム変化によってDCLK1遺伝子発現スイッチが制御されていることが示された。次にエピゲノム制御因子Xのノックアウト株を、ゲノム編集法(CRISPR/Cas9)によって作成した。Xノックアウト株において幹細胞性の亢進を認めたが、その制御にはヒストン抑制マークH3K9me3が関与する可能性が示唆された。網羅的遺伝子発現解析を用いてH3K9me3によって発現コントロールされている遺伝子候補Yを同定した。Xノックアウト株の幹細胞性亢進はYノックダウンによって抑制されることが明らかとなった。現在Xノックアウト株の生体内腫瘍解析・転移解析に加え、手術検体を用いて臨床病理学的検証を進めている。さらに、治療抵抗性獲得と幹細胞性エピゲノム制御について新たな解析を展開している。
1: 当初の計画以上に進展している
癌幹細胞の細胞競合がクロマチンの動的変動(open⇔bivalent)によって制御され、特に癌転移における生体内優位性の獲得に寄与することが明らかとなった。さらにエピゲノム制御因子とクロマチン変化による癌幹細胞の維持メカニズムを示唆する結果が得られ、新しい治療標的候補の可能性について研究展開を進めている。
細胞競合におけるクロマチン動的変動と意義を解析するとともに、癌幹細胞を特異的に標的とする治療開発へと研究をさらに発展させる。現在、癌幹細胞競合におけるスーパーエンハンサーの関与が示唆されるpreliminary dataも得ており、標的分子の同定も進めている。細胞競合研究のトランスレーショナルな展開へ寄与する重要な研究課題である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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