近年、上皮由来がんの発生初期において、変異細胞がその周囲を正常上皮細胞に囲まれた状態で存在し、両者が生存を争う細胞競合現象が生じていることが明らかとなってきた。これまでに細胞競合に関与する細胞間シグナルや蛋白質が数多く同定されてきたが、生体内における細胞競合を制御する分子メカニズムを詳細に解明するためには、in vitroでの哺乳類培養細胞系の解析に加えて、個体を生かしたままin vivoで生きた組織内の生きた細胞を観察し、時空間的な挙動を明らかにすることが大変重要である。 本研究では、二光子励起顕微鏡を駆使して、動物個体を生かしたまま生理的な環境を維持しながら、生体腸管組織内の生きた細胞動態を可視化する生体イメージング手法を確立した。さらに、確立した生体二光子励起イメージング技術を用いて、細胞競合モデルマウス(Villin-CreERT2; CAG-LSL-RasV12-IRES-EGFP)の生体腸管組織内を観察し、細胞競合によりRas変異がん細胞が正常上皮細胞層より排除される様子をリアルタイムで可視化することに成功した。一方、Ras変異が誘導されないコントロールマウス(Villin-CreERT2; CAG-LSL-IRES-EGFP)では、EGFP陽性細胞は腸上皮層より排除されなかった。これらの結果から、ショウジョウバエやin vitroの哺乳類上皮培養細胞系で明らかになった細胞競合現象が、哺乳類生体内のin vivoの系でも実際に起こっている現象であることが明らかとなった。
|