研究実績の概要 |
癌関連遺伝子であるRasやYAP薬剤依存的発現誘導が仕組まれた細胞と完全な正常細胞をコラーゲンゲル上に高密度で共培養し、上皮様の細胞シートを形成した。その後テトラサイクリン投与により一部の細胞を癌化させ、正常細胞との競合状態とその前後における敗者細胞の力学特性と”活きの良さ”を観測した。例えば、北海道大学の藤田班から提供されたRas変異細胞(MDCK-RasV12)は、柔らかいゲル上で正常細胞に取り囲まれると、敗者として管腔側に脱落する。周辺の正常細胞にはフィラミンやビメンチン等の細胞骨格関連蛋白質が過剰発現し、敗者細胞を押しのける(M. Kajita, Nat. Comm, 2014)。押し出されることが確定している敗者細胞の力学特性は、テトラサイクリン投与後細胞シート中に留まる間は大幅に柔らかくなり、上皮細胞シートから完全に押し出された後には、逆に硬化する様子が観測された。また、細胞の力学的な”活きの良さ”は、正常細胞との競合中には2桁程度も大幅に増加した後、敗北が決定して完全に押し出された後は、逆に低下している様子が観測された。 得られた結果は、1)周辺細胞との細胞競合中には細胞内の力学的な活性が増加し、細胞質は強制的に流動化されている。それに対して2)敗北が決定して上皮層から押し出された後には、細胞死に向かうことで活性が低下して細胞質が固化していると解釈できる。マイクロレオロジー計測により得られる”活きの良さ”は純粋に力学的な指標であるが、細胞内部の代謝活性との関連性をATP枯渇アッセイを用いて調べており、上記の解釈と整合する成果も得られつつある。 計測データの統計数を増やすことが今後の課題であるが、少数の敗者細胞中にプローブ粒子が導入されていることが稀であるために、観測に失敗することが多い。現在、セルソーターを使用して計測の歩留まりを改善させることを検討している。
|