腎臓は尿管芽と後腎間葉という2つの組織の相互作用によって形成される。尿管芽は後腎間葉を分化誘導しつつ、自身は後腎間葉からのGdnf/ Retシグナルの作用で分岐・分化する。この上皮細胞が分裂する際に、一旦管腔内に飛び出してから上皮に再挿入されるという現象が報告された (Packard et al. Dev Cell 2013)。一方、我々は尿管芽の発生を解析する過程で、上記の現象が障害されたと考えられる変異マウスに遭遇した。そこで本計画は、尿管芽という発生期腎臓上皮における細胞競合の関与とその破綻による異常を解析することを目的とした。
1) 正常発生における尿管芽上皮の細胞競合:マウス胎生11.5日から発生段階を追って、分裂期の細胞をリン酸化ヒストン(pHH3)抗体で染色したところ、管腔内で分裂するように見える細胞は多く見られるが、そのすべてが上皮層内に留まり、管腔内には飛び出ていないことが明らかになった。分裂時に細胞核の位置が上皮内で変動するのみで、細胞のアピカル面より明らかに細胞側に位置した。またHE染色でも管腔内に細胞は認められなかった。既報論文は、過剰固定による細胞収縮のartifactを見ていたのではないかと推測される。
2)ミオシン欠失における尿管芽上皮の異常:尿管芽特異的にミオシン重鎖IIA/IIBを欠損するマウスで見られるapical extrusionとbasal protrusionの原因を探索した。尿管芽の形成に重要な働きを担うRetのシグナルの下流遺伝子群は変化しておらず、Retヘテロマウスとの交配でも症状は軽減しなかった。しかしERKは変異細胞で顕著に増強し、阻害剤存在下の器官培養において異所性の尿管芽形成は一部抑制されたため、Ret非依存性のERK活性化が関与することが明らかになった。しかし、in vivoにおいても、MDCK細胞によるノックダウンにおいても、細胞競合に必須の条件である細胞非自律的な現象という証拠がまだ得られておらず、細胞競合の関与は未解明である。
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