研究領域 | 細胞競合:細胞社会を支える適者生存システム |
研究課題/領域番号 |
15H01500
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
田守 洋一郎 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 助教 (10717325)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞競合 / ショウジョウバエ / 老化 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
これまでの研究から、細胞競合という現象は、正常な組織から異常細胞を排除する組織恒常性維持機能としての重要性が示唆されているが、正常細胞が隣接する異常細胞を認識して細胞死を促すという、この現象の非常に重要なプロセスのメカニズムは未だにほとんど解明されていない。ショウジョウバエ成体の卵巣濾胞上皮を用いた本研究の予備実験から、mahjong変異細胞によって誘導される細胞競合は、個体の加齢に伴って次第に起こらなくなることが示された。この老化に伴う細胞競合能の低下の原因を突き止めることは、細胞競合のメカニズムを理解することに繋がる。 平成27年度は、申請書の研究計画に基づいた実験から以下のような成果が得られている。まず、ショウジョウバエ成体の卵巣濾胞上皮に誘導した細胞競合条件下において、正常細胞が異常細胞を認識する共通機構として以前に報告のある、細胞膜表面タンパク質Flower(Fwe)の発現を調べたところ、成虫原基で見られるような発現パターンが得られなかったことから、卵巣濾胞上皮ではこのシステムが働いていない可能性が考えられた。次に、異常細胞の細胞死誘導に関与していると考えられているJNK経路の活性について調べてみたところ、若い個体の卵巣濾胞上皮において細胞競合条件下で観察されたJNK経路の亢進が、老齢個体の同じ条件下では低下していることが観察された。細胞競合能の老化に関わる未知遺伝子を同定するためのトランスクリプトーム解析に関しては、RNA seqを行う前の予備実験として、その最適な条件検討を行った。その結果、MARCMシステムを用いて誘導したmahjong変異細胞と野生型細胞からなるモザイク濾胞上皮と野生型細胞同士のモザイク濾胞上皮の各トランスクリプトームを、若い個体と老齢個体との間で比較するという計画を立てるに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA seqの最適条件を決定するための実験に予想以上に時間がかかったため、平成27年度に予定していたトランスクリプトーム解析は、平成28年度に行うこととなり現在実施中である。それ以外のものについては、申請書の平成27年度の研究計画どおり、進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に検討したトランスクリプトーム解析の最適条件に対する解析結果を基にして、平成28年度には実際に各種条件下の卵巣濾胞上皮に対するRNAシーケンシングを行い、それらのトランスクリプトーム解析から、老齢個体の細胞競合条件下で細胞競合能の低下に関与している遺伝子を同定する。また、このトランスクリプトーム解析で得られるデータから有望と思われる各遺伝子については、実際の細胞競合を誘導したモザイク組織における発現解析、及び変異体やGal4-UASシステムによるRNAiを用いた表現型解析を行うことによって、それらの細胞競合における機能を解析する。また、細胞競合条件下で観察されたJNK経路の亢進に対して、これらの遺伝子がどのように相互作用を持つのかについても解析する予定である。
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